2023年(令和5年) 9月2日(土)付紙面より
ツイート
豊作を願う出羽三山神社(阿部良一宮司)の「八朔(はっさく)祭」が31日夜、鶴岡市の羽黒山頂で行われた。「蜂子社」前の護摩壇にご神火がたかれ、山伏が荘厳な火祭り神事を繰り広げた。
八朔祭は山伏修行「秋の峰」(8月26日―9月1日)を締めくくる勇壮な火祭り。旧暦で8月1日に当たり羽黒山の開祖・蜂子皇子の荒行をたどった山伏たちが稲の順調な収穫を祈願する。クライマックスは「火箸(ひばし)行事」。荒行を積んだ山伏が長さ約3メートルの「火箸」を持って体を回転させながら護摩壇を突き火の粉を舞い上がらせる場面は圧巻だ。
この日は午後9時から蜂子社で阿部宮司や神職がお札を祈祷(きとう)。ご神火を護摩壇に付け祭りは最高潮に達した。山伏たちは燃え上がる火柱の前で崇敬者の名前を読み上げ「五穀豊穣(ほうじょう)」「商売繁盛」「家内安全」「身体堅固」「交通安全」を願った。
2023年(令和5年) 9月2日(土)付紙面より
ツイート
2446段の石段参道の両脇に立ち並ぶ、国の天然記念物「羽黒山のスキ並木」を守る取り組みが始まった。杉並木には樹齢350―400年のスギが558本ある。その1本ずつの健康状態を調査し、倒木の危険性などを確かめて保全策を策定する。現在、確認されている枯れたスギは18本。杉並木参道の安全を確保することによって、景観が将来に伝えられる。
杉並木の保全に向けた調査と計画策定は、羽黒町手向の住民組織「羽黒山スギ並木保全まちづくり協議会」と、北海道大学観光学高等研究センターが当たる。出羽三山信仰の入り口に当たるのが羽黒山であり、参拝道のシンボルの杉並木を、しっかり保全していきたい。
◇ ◇
出羽三山は開山から1400年余。日本有数の修験道の聖地。羽黒山(現在)、月山(過去)、湯殿山(未来)を巡る「生まれかわりの旅」の信仰が息づき、三山巡りは人が再生するお参りとして考えられている。参道入り口の随神門をくぐると杉並木が下り坂になるのは、一度地獄に落ちるところからお参りが始まるためとされる。五重塔を過ぎると一の坂・二の坂・三の坂の急坂の表参道杉並木が続く。
参道には、五重塔近くに樹齢1000年の「爺杉」もある。羽黒山にはスギを“長寿”にさせる環境があるとしても、長い年月を経れば樹勢が衰えることは避けられない。出羽三山神社の森林技師を務めた鈴木栄作さんは「国の天然記念物であり、腐食して倒れそうになっても枯死しなければ伐採できない決まりがある。ワイヤを取り付けて参道側に倒れない処置を施すことが必要」と語っている。
2019年、国内最大級の外国人向け日本情報サイトが公表した、「外国人が訪れるべき日本の観光地ランキングトップ10」で鶴岡市が8位に入った。出羽三山信仰の精神性と神秘性などが評価された。即身仏、山伏修行、精進料理などを取り上げ「鶴岡には不思議がたくさんある」と紹介している。随神門から三神合祭殿へと続く日光を遮るような杉並木の景観も圧巻だ。
◇ ◇
岩手県盛岡市が今年1月、米国のニューヨーク・タイムズに、23年に行ってみるべき世界の52カ所に英国・ロンドンに次いで2番目の場所として紹介されて話題になった。今年8月の夏祭り「さんさ踊り」は例年にない人出があったという。街の歴史性や景観などが人々を引き寄せたのだろう。
出羽三山は信仰の山であると同時に貴重な観光資源。参道の石段には天狗の面、ひょうたん、山伏の姿などさまざまな彫り物がある。難所の二の坂には、弁慶が神様にささげる油を持って登る途中、急坂に疲れ果て油をこぼしてしまった「油こぼし」の異称がある。どれもが羽黒山が誇る杉並木参道があればこそ。杉並木を後世に残す最良の保全策が練られることを期待したい。
2023年(令和5年) 9月2日(土)付紙面より
ツイート
鶴岡市槙代の天魄(てんぱく)山麓にある「温和の森」で31日、あつみ小学校(里見研校長、児童131人)の3年生20人が焼き畑での温海かぶの種まきを体験した。殺菌効果の高い焼き畑の特性について説明を受け、地元の特産物と伝統農法について理解を深めた。
森・川・海の資源を活用した地域の営みを学び、関心を高めてもらう「天魄森林自然教室」の一環。鶴岡市がやまがた緑環境税を活用し、あつみ小3―5年生を対象に実施している。
種まき体験は約50平方メートルの急斜面の畑で行われた。初めに温海町森林組合職員による火入れを見学。火入れには5年生が7月に温和の森で枝打ちした枝が使われた。市温海庁舎職員から「火入れをすることで病気や虫の害を防ぎ、殺菌の効果がある。さらに草木灰が栄養満点の天然肥料となる」と伝統の焼き畑農法について説明を受けた。
畑の火が収まった後、児童たちは川底から採取した砂と混ぜ合わせたカブの種を手に取り、斜面の上と下から「大きくな~れ」「おいしくな~れ」と声をそろえて勢いよくまいた。
伊藤大夢君(9)は「ばい菌を防ぐ灰の力はすごいと思った。今日まいた種も大きなカブに育ってほしい」と話していた。3年生は11月下旬ごろ収穫と温海かぶの漬け込み体験を行う。余った種は校舎のプランターなどに植え、来年度の3年生が新たに種を採取するという。