文字サイズ変更



  • プリント用表示
  • 通常画面表示

荘内日報ニュース


日付の新しい記事へページを移動する日付の古い記事へ
  • ニューストップ
  • 最新記事
  • 戻る

2009年(平成21年) 7月2日(木)付紙面より

ツイート

庄内浜のあば 悲哀と快活と歴史と ―17―

カギ棒に視線注ぐ

せりは真剣勝負

 夕方5時、鶴岡市の山形県漁協由良支所が活気づく。その日水揚げされた魚の競りが始まるのだ。午後4時ごろから仲買人や浜のあばたちが集まり始め、床に並べられた魚箱を見て回る。どの魚をどれくらいの値で競り落とすかを見極めているのだ。大口で買い付ける仲買人らは、携帯電話で会社としきりに連絡を取っている。

 腰を掛けて競りの始まりを待っているあばたちの間で、じゃんけんしながら笑い声が上がる。支所の片隅の自動販売機まで、誰がジュースを買いに行くか決めるのだ。言葉遣いに荒っぽさはあるが会話は快活だ。はたから見ると真剣勝負の前の運試し、互いの腹のうちを探っているかのようでもある。

 競り人が持つ、長さ約3メートルの「カギ棒」の先端が、床の魚箱に下ろされる。周りを囲むあばたちの視線がカギ棒の先端に注がれる。競りの始まりだ。

 競り人の「はい」とも「へい」とも聞こえる声に続いて「ソク、ブリキリ、テンガリ、ニモンメ、ポントローズ……」などと、早口の声が市場に響く。聞き慣れないどころか、何を言っているのかさっぱり分からないが、時々あば・仲買人から「はいっ」とか「おっ」という声が上がって競りが成立する。

 カギ棒は、ひとつの競りが終わるごとに別の魚箱へと移る。

独特の競り用語

 競り人がしゃべっている掛け声は、「符諜(ふちょう)」と呼ばれる商品に付ける値段の隠語で、消費者に元値(浜値)が分からないようにするためともいわれる。競り人歴32年の由良支所の佐藤研さん(50)によると、競り人の早口の掛け声は観音経の節が元になっているのだという。

 「西田川郡水産誌」(西田川郡役所発行)に、鶴岡市馬場町に1914(大正3)年5月、県知事認可で開設された庄内水産魚市場規定があり、「競売に使用する符諜が明記されている。それによると1から10までの符諜は次のようだ。

 ▽1=ソク▽2=ブリ▽3=キリ▽4=セウナイ(ショウネ)▽5=ガリ▽6=テン▽7=サイナン▽8=バンド▽9=キワ▽10=ポント(ソク)。11以上はこれらを組み合わせる。ちなみに▽11=ソクナラビ▽15=ポントガリ▽25=ブリガリ▽38=キリバンド▽99=キワナラビ▽100=ソク―という具合だ。

一匹でも仕入れる

 季節や魚の水揚げ量によってはコダイ、カレイ、オコゼ、ウマヅラ、アジ、クルマエビ、貝類などが同じ箱に混在して入れられる。個別に目方(数量)の札が付けられ、仲買人やあばらは同じ箱に入っている魚を別々に競り落とす。鮮度の良さと同時に檀家(得意先)に喜ばれそうな魚に狙いを付ける。だから、箱の中からヒラメを一匹だけ競り落とすこともある。

 鶴岡市由良で鮮魚店を営みながら地区内で行商もする佐藤倉子さん(80)は、「大してもうかる仕事ではないが、稼がねば食っていがいねもんだし。いい魚を仕入れて檀家に喜んでもらうのも、もうけのうち」と、床の魚に視線を向けた。海のそばでも、あばの行商は頼りの存在だ。

(論説委員・粕谷昭二)

あばたちにとって真剣勝負に似た競り。視線はカギ棒に注がれる=県漁協由良支所(左) カギ棒の先端(左)は、ひとつの競りが終わるたびに別の魚箱に移る
あばたちにとって真剣勝負に似た競り。視線はカギ棒に注がれる=県漁協由良支所(左) カギ棒の先端(左)は、ひとつの競りが終わるたびに別の魚箱に移る



日付の新しい記事へページを移動する日付の古い記事へ

記事の検索

■ 発行月による検索
年  月 

※年・月を指定し移動ボタンをクリックしてください。
※2005年4月分より検索可能です。

 
■ キーワードによる検索
   

※お探しのキーワードを入力し「検索」ボタンをクリックしてください。
※複数のキーワードを指定する場合は半角スペースを空けてください。

  • ニューストップ
  • 最新記事
  • 戻る
ページの先頭へ

Loading news. please wait...

株式会社 荘内日報社   本社:〒997-0035 山形県鶴岡市馬場町8-29  (私書箱専用〒997-8691) TEL 0235-22-1480
System construction by S-Field