2018年(平成30年) 5月26日(土)付紙面より
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植物の生育に必要な肥料成分の窒素やカリウムを多く含む下水道処理水を飼料用米栽培に活用する実証実験が進む鶴岡市で24日、実際の水田を使った本格的な栽培がスタートした。山形大農学部の渡部徹教授(42)のグループが取り組む研究の一環で、この日、同市文下の30アールの水田で飼料用米「ふくひびき」の田植えが行われた。収穫まで肥料を一切やらずに下水処理水のみで栽培し、高収量と低コスト化につなげる。
研究は山大農学部と市、JA鶴岡などが2013年から共同で取り組んでいる。学部内で3年間の基礎実験、同市宝田三丁目の市浄化センター敷地内に設けた実験用水田での2年間の試験栽培で、10アール換算収量900キロの高収量と、家畜の栄養素となるタンパク質が一般的な栽培に比べ1・5倍となるなど好結果が得られた。
渡部教授によると、下水処理水のかんがい利用は世界的に例がなく、渡部教授は「畜産農家が主に使う飼料用トウモロコシの代替となる上、高タンパク質から飼料とする輸入大豆の量も減らせる」と話す。
水田での本格栽培は、浄化センター隣接の水田に処理水をパイプで引き込んで行う。一日最大150立方メートルの処理水を24時間かけ流しで栽培し、水田を所有する同市文下の農家、板垣康成さん(52)が管理や手入れする。
田植え式には関係者約30人が出席。皆川治市長が「下水道と農業が結び付き、多面的な効果が発揮できるようしっかりと取り組みたい」、山大農学部の村山秀樹副学部長は「国内だけでなく、水不足に悩むアジアなど世界に研究成果を発信していきたい」とあいさつ。2018年ミス日本「水の天使」の浦底里沙さん(22)と共に苗を手植えした。
水田かんがいに下水処理水を活用する飼料用米栽培の実験は、地域の資源循環システム構築を目指す研究で、タンパク質含有率が高いと主食用では食味が劣るものの家畜の栄養分としては好適。今秋収穫が見込まれる2トン超の飼料用米は、養豚の飼料として実際に使い、肉質なども調査する。
2018年(平成30年) 5月26日(土)付紙面より
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戦後の日本が生んだ傑作カクテルといわれる「雪国」。その創作者である井山計一さん(92)=喫茶「ケルン」マスター、酒田市中町二丁目=の半生に光を当てたドキュメンタリー映画「YUKIGUNI」が完成し24日、同市の希望ホールで先行上映会が開かれた。
井山さんは1926年、酒田市生まれ。ダンス教師を経て、27歳の時に仙台市にバーテンダー修業に行き転身。59年、壽屋(現サントリー)主催の全日本ホーム・カクテル・コンクールに「雪国」を出品してグランプリを獲得。今もケルンで現役のバーテンダーとしてシェーカーを振り続けている。
映画の監督を務めたのは鶴岡市在住の映像作家・渡辺智史さん(37)。2011年に知人に勧められてケルンに行き、井山さんに出会った。スタンダードカクテルの創作者が現役でバーテンダーとして働いていることに感銘を受け、夜の酒場の文化とともに記録に残したいと思い立ったという。15年11月から今年3月まで井山さんや家族、県外のバーテンダーらに取材し、1時間27分の映像作品にまとめた。
内容は、井山さんの半生を振り返りながら「雪国」誕生の経緯やその魅力、家族の絆、大火や空洞化など酒田のまちの移り変わりを描いた。全編にわたり背景音楽にスタンダードジャズを取り入れ、ロマンチックな雰囲気の中に普遍的なテーマをちりばめた。ナレーションは俳優の小林薫さん。
上映後、井山さんは「雪国は、多い日は50杯ほど作る。これを飲みに大勢の人に来てもらえるのはうれしい。映画になり、大好きな酒田のことを多少なりとも発信できたら」と話した。
渡辺さんは「時代を経ても古びないもの、変わらないものを描きたかった。一つの仕事を続け、大切な人をいとおしく思い、老いていく。そんなことの中にヒントがあるような気がする」と話した。
先行上映会は6月23日(土)に酒田市の希望ホール(午前10時半、午後1時半、同7時の3回)、同24日(日)に同市総合文化センター(午前10時半、午後1時半の2回)でも行われる。料金は前売り1200円、当日は1700円。ケルンや八文字屋ヱビスヤ店(鶴岡市)などで扱っている。今秋からは首都圏を皮切りに全国の劇場などでも公開予定。問い合わせはいでは堂=電0235(24)8387=へ。