2024年(令和6年) 12月14日(土)付紙面より
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以前も目にしたニュースだが、郷土芸能が学校行事として受け継がれている様子に、あらためて頼もしさを覚える。全国では無形民俗文化財などが、担い手不足で継承が休止状態のケースもある。庄内でも今年8月、鶴岡市温海地域の「戸沢花胡蝶歌舞伎」が、後継者不足などのため歴史を閉じた。人が減ることに、やりきれなさを覚える。
そんな中、同市の東栄小学校伝統の「獅子踊り」の引き継ぎ発表会があった。6年生が下級生に祭りのシンボル「獅子頭」をバトンタッチし、学習活動として民俗芸能を受け継いでいく。地域の祭りを守り、郷土愛を育てることにもつながる。併せて子どもの情操面での成長にもプラスするであろう。
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鶴岡市藤島地域は「獅子の郷」と呼ばれ、室町時代から各地区の神社で獅子踊りが伝承されている。東栄小学区では「添川獅子踊り」と「東堀越獅子踊り」が伝承されており、1993年、地区の伝統を受け継ごうと同小で獅子踊りを学習に取り入れた。以来、入学式で6年生が踊って新1年生を迎え、6月の体育祭、12月の引き継ぎ式で演じる。
全国的に人口減少で無形民俗芸能の保存活動がピンチに陥っているという。戸沢花胡蝶歌舞伎が約300年の歴史の幕を閉じた背景にあるのも担い手不足。「歌舞伎にこだわっていては、地域そのものの存続にまで影響する」と、苦渋の決断だった。
かつて、元自民党幹事長の加藤紘一さんは、「人口が減ることで地域の祭りを守ることが厳しくなってきている。東京などで働く人が、田舎の祭りの時期に数日間帰省できるような仕組みがあってもいいと思う」と語っていたことがあった。古里を離れて働いている人たちが、数日間帰省して祭事に参加する。最近よく語られる「関係人口」によって伝統を守ることに関わることを指したものだったと思われる。
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「黒川能」や「黒森歌舞伎」などは、一年を通じてさまざまな儀式や神事、準備を整えることで初めて奉納舞、公演が成り立つ。地域で受け継がれている民俗芸能も、大なり小なり同様で、全ては人手がなければできない。鶴岡市温海地域の「ケヤキ姉妹」の風習は、文部省の「記録作成等の措置を講ずべき無形文化財」として記録に残されているが、10代前後の該当年齢の女子がいなければ、実際の行事はできない。
生活の多様化から準備などに同じ日時に全員が集まれないこともある。本来は男児が担う祭事を女児が担ったりするケースもある。東栄小の伝統は30年を超え、地元を離れている人は多いだろう。文化は時とともに少しずつ形態を変えながら受け継がれる事は受け入れられるとしても、担い手がいないことで将来への継承を閉じなければならないとは残念だ。地方創生が功を奏していない一端と言えるのではないか。