「地物はまだだが?」。孟宗は、鶴岡市外内島にある産直「もえん」の春の目玉であり、「初物」の入荷時期に関する問い合わせが今年は特に多い。待望の朝掘り孟宗は今月4日に店頭に並んだ。「去年は4月18日に掘り始めたが、今年は2週間以上も遅れてしまった」。金峰山のふもとの竹林で孟宗を育てる原田安江さん=高坂=が申し訳なさそうに話した。
シーズン中は連日、その日の朝に掘ったばかりの孟宗が午前10時すぎにもえんに届けられる。タケノコに残る土からもみずみずしさがうかがえる。「根元のイボが赤くて、底の部分が白いものが新鮮な証拠。時間が経つと青みがかかります」と店主の難波茂右ェ門さんが解説する。
「『孟宗は出てきたものを掘ればいいだけだろう』と言われますがとんでもない。シーズンが終わった後、肥料をやらなければいけないし、草の下刈りも欠かせない。結構手間をかけているんです」。原田さんが生産者の苦労を語る。
孟宗を掘るには熟練を要する。ほんのわずかに盛り上がった地面でありかを見つける。「目の明るい人でないと無理。先っぽが顔を出す前に掘り出さなければならないのです」。
孟宗に限らず、タケノコは「足が早い」食材だ。鮮度が命だからもえんの朝掘りは消費者にも重宝される。「いがらみがなく、柔らかくておいしいんですよ」と原田さんは胸を張った。初日はまだ「はしり」だけに小ぶりのものばかりが並んだ。地物を待ちかねたお客さんが次々と買い求めていく。
原田家ではシーズン中は毎日、孟宗が食卓に上る。「私は飽きるけど、中学生と高校生の孫娘が大好きで、『お通じもよくなる』と食べています」。原田家の孟宗料理は掘りたてを使うため、あく抜きをしない。生産者だから許される特権だろう。
「初掘りは天ぷらやタケノコご飯にして味わってほしい。ゆでて刺し身にしてワサビじょうゆやしょうゆマヨネーズで食べてもおいしいです」。原田さんのおすすめレシピは梅肉和え。ゆでた孟宗の先っぽを薄くスライスして梅肉と和える。「シンプルな食べ方が一番です」。難波さんは「新鮮なものならゆでなくとも、生のままでも大丈夫ですよ」と話す。
おいしい孟宗の見分け方について原田さんは「ずんぐりむっくりした太いものを選ぶのがコツ」と教えてくれた。初物は100g80円で販売されたが、出荷量が増えるに従い安くなる。「買ってくれる人のことを考え、市場価格で売るようにしています」と消費者への配慮も忘れない。
「掘り初めが遅くとも収穫時期が終わるのは毎年同じ。今年は旬が短いと思う。残念です」と話した後、「初掘りから1週間で大きいものが出てきます。暖かくなれば、雨後のタケノコはどんどん出ます。期待してください」と笑った。もえんでは今月末まで孟宗が店頭に並ぶ。
孟宗、梅干し、かつお節、七味唐辛子
2006年5月8日付紙面掲載