学生時代、家庭教師先で食事が出てきた。ひと目見て夕顔のあんかけと思い、「懐かしい、夕顔だ」と口に入れると、「それはトウガン。漢字で冬の瓜と書くんですよ」と生徒の母親が教えてくれた。あれからウン十年。鶴岡市の百万石の里「しゃきっと」でそのトウガンを見つけた瞬間、今回の素材はトウガンと心に決めた。
「これまでは夕顔を植えていましたが、大きくなると切り分けて販売せざるを得ない。それで今年、初めてトウガンに挑戦してみました」。茂木満子さん=青龍寺=が話す。
トウガンは夕顔と同じウリ科の夏野菜。丸ごと風通しのよい場所に置くと、冬まで保存できることから「冬瓜」の名が付いたらしい。夕顔もそうだが、名前には趣が感じられる。インド、東南アジアが原産で、日本では平安時代から栽培されているそうだ。
栽培法は夕顔と変わらない。「4月に種をまき、つるが出たらそのまま地をはわせています。夕顔より勢いが強くて、踏みつけても踏みつけても次々とつるが出てきます」。
8月上旬に収穫がスタート。庄内ではあまりなじみがない野菜だが、しゃきっとでは「持って行けばほぼ即日で完売します」という人気だ。どんな人が買っていくのだろう。疑問を口にすると茂木さんは「私にも分かりません」と苦笑いした。
料理されたトウガンは夕顔と見分けが付かない。下ごしらえは、皮をむいて中の綿を取り除く。これも夕顔と同じだ。「青ジソとのけんちんやきんぴらにしたり。夕顔と同じ料理は大丈夫です。ほかにもあんかけ、鶏肉やベーコン、コンソメとのスープもいいです」。和風でも中華味でもおいしいらしい。
「こんな感じです。食べてみてください」。茂木さんが作ってくれたきんぴらをごちそうになった。しょうゆの味がよく染みておいしい。夕顔ほどの「つるつる感」はないようだ。
畑に連れて行ってもらった。つるが一面を覆っている。「勢いがある」というのもうなずける。つるの下に濃い緑色のトウガンがあった。ウリのような縦長の楕円形。ちょっと高級感が漂う。「白い粉が表面に出てきたら収穫します」。
帰宅後、いただいたトウガンをベーコンとのスープにしてみたが、油断しているうちに火が通りすぎた。トウガンそのものにはあまり味がない。大根を上品にしたような食感。スープの味は濃い方がいいようだ。鶏肉、夏野菜とのいため物はおいしかった。火はさっと、味は濃いめがコツかもしれない。あんかけにも挑戦してみたい。
来年も栽培したいと茂木さんがほれ込み、ビタミンCをたっぷり含んでいるトウガンは1個100~130円。鶴岡市覚岸寺のしゃきっと=電0235(29)9963=で販売している。
トウガン、しょうゆ、砂糖、酒、ごま、トウガラシ各適量、サラダ油
歯ごたえがなくなるので、火を通しすぎないように注意する。
2008年9月6日付紙面掲載