「7月に入ってからの雨がなあ」。鶴岡市藤島地区の産直施設「四季の里楽々」にタマネギを出荷している叶野幸衛さん=東堀越=は恨めしげに空を見上げた。
「転作作物としての可能性」を求めて4年ほど前、タマネギを試験的に植えてみた。一昨年秋には旧藤島町内の有志5人で本格栽培に乗り出した。営農グループ藤島オニオンクラブも結成し、今年はメンバーが9人に増えた。
「味はいいと思っている」と品質には自信があるが、難問が待ち受けていた。タマネギには、春に植え秋に収穫する「春まき」と秋に植え初夏から夏にかけて収穫する「秋まき」がある。秋まきの収穫期が梅雨の長雨と重なると、根腐れなどを起こしてしまう。
タマネギ栽培は明治時代、北海道開拓で導入され、その後、全国に広まった。最初に根を切り落とし、水分が玉に行き渡らないようにした後、日を置いてから収穫する。日持ちさせるため、収穫後は乾燥させてから出荷する。「自家用なら早めに収穫して、風通しのよい軒下にでもつるしておけばよかったが、面積を増やせばそうはいかない」。
今年は、タマネギ農家を「逆風」が襲った。梅雨が長引き「根を切るタイミングを失した。雑草も生えるという最悪のパターン。順風満帆とはいかないなあ」と苦笑いする。大生産地である北海道に比べ、気象上のハンディは否めない。
叶野さんのハウスに入れてもらった。収穫したタマネギが家族の手で次々に苗箱に並べられていく。梅雨明けを思わせるような青空が広がり、巻き上げた遮光シートの下を西風が吹き抜ける。「こんな日が2、3日続けば、すぐに乾いてくれるんだが」。つぶやきが漏れる。
叶野さんが作るタマネギの特徴は甘みにある。「全然辛くないし、むいても涙も出ない。今食べるなら生が一番。もちろんいため物、みそ汁、カレーやシチューにしてもおいしいよ。サクラエビとのかき揚げもいい」と話す。走りの時期の「新タマ」は生食がおいしい。「中玉トマトぐらいの小さいタマネギは甘さも十分。楽々でも昨年、評判がよかった」。
叶野さんのおすすめレシピはトマトとタマネギのマリネサラダ。「うちではバジルも作っているので入れています」とにっこり。帰宅後、いただいたタマネギでマリネサラダを作ってみた。包丁の先からも新鮮さが伝わってくる。口に入れるとサクサクしていてみずみずしい。キュウリやトマトなど「夏野菜」との相性は抜群だ。
楽々では600g入り1袋を120円で販売する。「作業遅れていますが、新聞に出るまでには間に合わせますよ」。
「春まきについては見通しが立った。タマネギは作れば需要のある作物。リスクはあるが、早生品種を作付けするなどいろいろとやってみたい。何とか一丁前になりたいね」。タマネギプロジェクトを待ち受けるハードルは高いが、チャレンジは続く。
タマネギ半分、トマト中3個、ニンニク1かけ、バジル適量、塩小さじ1/3、 コショウ少々、酢大さじ1、オリーブ油またはサラダ油大さじ3
2006年7月29日付紙面掲載