今回取り上げるのは地物が旬を迎えつつある孟宗(もうそう)。このコーナーで、同じ素材を取り上げるのは初めてだ。県外から帰省する人が多いと思われる時期だけに、「古里の味」を思い出してほしいとの願いも込め、2度目の登場となった。
鶴岡市街地の南に位置する金峰山のすそ野は庄内を代表する孟宗の産地。その中で湯田川に次ぐ知名度を誇る谷定地区を訪ねた。「日が当たる方から少しずつ出てきました」。鶴岡市白山の産直館と産直館駅前店に孟宗を出荷している今野知恵子さんが地孟宗の季節到来を「宣言」した。
今野さんを取材したのは4月26日。3日後の29日から5月5日まで、白山の産直館で開かれる孟宗祭りの直前だった。「前の日に大鍋で煮た孟宗汁を1杯100円で販売します。普段ならもう取っていますが、イベントの時になくなっては大変だから、手を付けずに待っています」と笑った。
谷定地区では13人の農家が2軒の産直館で孟宗を販売している。「頑張って、谷定孟宗をもっと有名にしようと、自分たちでのぼり旗を作りました」と意気込みを語る。
谷定孟宗の特徴を聞くと、「日当たりがよいせいか、表面の色は黄色っぽい。小さくて短く、コロッとしています。そしてえぐみが少ないんです」と教えてくれた。
孟宗は、出てきたものを収穫すればよいと思うのは素人。「年に2度草刈りをするほか、秋に肥料をやり、春には雪などで折れた竹をきれいにかたづけます」。手間がかかっているのだ。
孟宗料理にはあく抜きがつきものだが、「うちではしたことがないし、やり方も知りません。ゆでている時に浮かんだあくを取り除く程度です」という答えが返ってきた。いつも「取りたて」を食べる生産者の特権ではと、つっこむと、「市場に出さず残った物は翌日に食べています。でもえぐみがないんです」。谷定孟宗はあく抜き不要なのかもしれない。
暖冬だった今年の孟宗の出来が気になるが、「22日に初物を食べましたが、軟らかくておいしかった」というから、品質は期待できそうだ。
「太くてずんぐりむっくりしたものが味がいいです。それと先端の黒い部分が少ない方が軟らかいですよ」と、おいしい孟宗の見分け方は教えてくれた。鮮度については「根元の切り口がみずみずしいか注意してください」
今野家では孟宗汁のほか、さっとゆでてかす漬けやみそ漬けにもするそうだ。「生の孟宗の皮をむき薄く切って、天日にさらす干し孟宗もいがらみが抜けておいしいですよ。冬に戻して、いためてけんちん風にして食べてみてください」。それはおいしそう。ぜひ挑戦してみたい。
今野さんのおすすめレシピは定番料理の孟宗汁。ご主人が肉好きという今野家では肉入りも作るというが、好みで入れなくともいいそうだ。
地表にほんの先だけ顔をのぞかせた小ぶりの孟宗を1本いただいた。帰宅後、焼き孟宗にして塩とワサビじょうゆで食べたが、そのおいしかったこと。えぐみがない谷定孟宗の「実力」を堪能した。
産直館では当面、100g当たり60円ほどで販売するが、市場価格に比例する形で値も下がる。今野さんは、孟宗3kgに300gの酒かすを付けた宅配用セットの申し込みも受け付けている。5月末まで店頭に並ぶ。
孟宗、生シイタケ、厚揚げ、豚肉のコマ切れ、みそ、酒かす
メモ 肉は入れなくとも素朴な味が楽しめる。かす汁に合うアオサやウドを入れてもおいしい。
2007年5月1日付紙面掲載