7月に農村地帯に車を走らせると、梅雨空の合間を縫って、梅を天日干ししている光景に出合う。「梅干しの季節か」と暑い夏の訪れを実感する。今回、紹介するのは、鶴岡市櫛引地域で栽培量が増えている「庄内節田(せつだ)梅」という「新種」の梅だ。
「種が小さくて果肉が多い。そして甘みがあり、酸味がそんなに強くないから梅干しに向いているんです」。鶴岡市の「産直あぐり」で庄内節田梅を使った梅干しを販売している鈴木正衛さん=西片屋=が胸を張る。
鈴木さんは十数年前、成長した梅の苗木がほかの梅と違うことに気づいた。節田梅の枝変わり品種だった。庄内節田梅と名付け、苗木の量産に乗り出した。
鈴木さんが住む西片屋はサクランボの産地、北側の東荒屋は和梨、その西側の西荒屋はブドウというように、旧櫛引町の南部地域は地区を代表するフルーツを抱えている。しかし、西片屋の西側に位置する板井川地区にはこれといった果樹がない。そこで鈴木さんは「梅の里づくり」を提案。3年ほど前、鈴木さんの「新品種」を活用した産地化がスタートした。現在は1000本の庄内節田梅を栽培している。
「仕掛け人」である鈴木さんも120本の梅を植えているが、収穫できるのはまだ20本足らず。苗木の梅は「2年目に花が咲き、4、5年目になって実が収穫できる」ためだ。
収穫した梅の大半は梅干しに加工される。サクランボがピークを終えたところで梅を収穫、夫婦2人で汗だくになって作業を行う。
「シンプルにシソの葉と塩を加えただけです」という梅干しをすすめられ、口に入れてみた。酸っぱい物はあまり得意ではないのだが、鈴木夫妻手作りの梅干しは酸っぱからず甘からず、そして軟らかい。「種がびっくりするほど小さいでしょう」と言われ、なるほどと気づいた。おにぎりに合いそうだ。鈴木さんは「私は焼酎に入れて飲んでいます。おいしいですよ」。
あぐりでは160g入り320円という割安価格で販売している。追加注文が次々に舞い込むというのもうなずける。
「梅干しじゃあ、おすすめレシピにならないでしょう。これ、飲んでみてください」と妻の松子さんが出してくれたのが梅ジュース。「友人に聞いて、初めて作ってみたんです」。ブランデーのような琥珀色をした液体がグラスに注がれた。甘い味と香りが口に広がった。こんなに芳醇で濃厚なジュースに出合ったのは初めてだ。本来は薄めて飲むのだという。
「グラニュー糖なら3カ月、氷砂糖なら1年で飲みごろになります。まもなく本人が来るので、詳しい作り方はそちらに聞いてください」。
「師匠」の佐久間富井さん=西荒屋=が到着した。「梅と砂糖は同量。一度、凍らせるのがコツです。水分が出やすいからでしょう。私は苦手なので入れませんが、この辺では酢を加える人が多いようです。体にいいという健康志向があるのでしょうね」と教えてくれた。
鈴木さんは「かき氷のシロップに使ったり、冬はあぐりでホットジュースにして出すのもおもしろいかも」と今後の展開を思い描く。「梅の効能はすごいですよ」と話す鈴木夫妻おすすめの梅ジュース。節田梅以外の完熟梅でもトライしてみる価値がありそうだ。
梅4kg、グラニュー糖(または氷砂糖)4kg、酢6合
メモ/グラニュー糖なら青梅、氷砂糖なら完熟梅がおいしい。
2007年6月30日付紙面掲載