個人的な好みだが、アサリの酒蒸し、親子丼、茶碗蒸しに欠かせない野菜がある。それはミツバだ。蓋を開けた時に鼻をくすぐる上品な香りと口に入れた時の優雅な味わい。料理を引き立てる素晴らしいアクセントではないか。しかし、スーパーで見かけるのは県外産の糸ミツバばかり。値段も結構いい。地場産はないだろうとあきらめていたらあったのです。素晴らしいミツバが。
「ハウスの端っこで少し栽培している程度。恥ずかしいから取材はお断りしたのに」。鶴岡市の産直館のぞみ店と駅前店で販売している佐藤志津子さん=文下=がはにかんだ。
佐藤さんのミツバは、水耕栽培のものとは見た目からして違う。同じ「香気系」のセリほどではないが、茎が太く緑色も濃い。水耕栽培のミツバがひ弱に見えるのに対し、たくましさを感じる。
「この辺には自生のミツバがあります。うちのは隣の家の『こぼれ種』から出てきたのをハウスに持っていったんです」。庄内にミツバが自生していると初めて知った。
「追肥する程度で特になにもしていません」と謙遜する。だが、産直館のぞみ店の売り場でミツバを見て「上手だのー」と感心している生産者を目撃した。300人ほどの生産者がいる産直館で、現在、ミツバを出荷しているのは佐藤さん1人。生産量こそ少ないものの、希少価値も高い野菜と言えるだろう。
「セリよりも優しいというか上品。好きな人にはこたえられないと思います。見た目もきれいだし、おすましや汁物にぱっと放してください」とミツバの魅力を語る。ビタミンB1、ビタミンCを多く含み、貧血や疲労回復への効果が期待できるそうだ。
ハウスに連れて行ってもらった。濃い緑色の茎と大きな葉っぱが生命力の強さを感じさせる。やはり水耕栽培とは別物にしか思えない。かまで切り取ると、ミツバ特有の香気が鼻に飛び込んできた。「天ぷらやかき揚げ、おひたしもおいしいと思いますよ」。
帰りに魚屋さんに立ち寄り、ヒラメのどんがらを購入。帰宅後、吸い物を作り、言われた通りミツバをぱっと放した。香気が強く味も濃い。この機会にしかできないと思い、さっとゆでてしょうゆをかけるというぜいたくな食べ方にもトライ。春を感じさせる素晴らしい味だった。
取材の終わりに「たくさん出しても売れると思いますよ」と水を向けると、「今後は面積を広げ、たくさんの人に食べてもらえるようにしようかしら」とその気になってくれた。
「切り口がすぐに茶色になってしまうのでおもしろくない」と佐藤さん。根元が茶色でも鮮度は抜群ということも申し添えておく。50グラム70円という価格もうれしい。「冬の寒い時以外はある」という佐藤さんのミツバは産直館ののぞみ店(のぞみ町)=電0235(35)1477=と駅前店(日吉町)=同(22)0202=で販売している。
ミツバ、エノキダケ、豆腐、酒、塩、しょうゆ
2008年4月26日付紙面掲載