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出世魚とおめでたい魚

「就職や入試の合格などお祝い事につきものの魚、といえばタイでしょうが、ほかにもおめでたい時に食べたり、あげたりする魚はあるのでしょうか」という質問を読者の方からいただきました。今回は、出世魚とおめでたい魚を取り上げたいと思います。

スズキはブリと並ぶ出世魚の代表選手です。地域で呼び名が違います

出世魚とは、稚魚から成魚まで成長する過程で、異なる名前で呼ばれる魚のことです。江戸時代、武士は元服の際や出世する時に名前を変える習慣がありました。これになぞらえ、成長に伴い出世するようにと、出世魚が門出やお祝い事に使われるようになりました。魚の場合、大きさが違うと用途や価値も変わってきます。小さいと焼き物ぐらいにしか使えないものが、大きくなれば刺し身になるというような具合です。商品価値が違う魚を同じ名前で扱うのは適当でないという意味合いもあるでしょう。

出世魚の代表選手はブリです。地方で呼び名が違うことは以前にも紹介しました。庄内では幼魚から順にアオコ、イナダ、ワラサ、ブリです。アオコのことを鼠ケ関などの浜ではフクラとも呼びます。漢字では福来と書きます。「幸福が来る」という意味をもじっているのかもしれません。アオコは重さ300gぐらいで、刺し身にできないこともありませんが、夏前にはナスと煮付けたりして食べます。

スズキもご存じの通り出世魚です。庄内では小さい方からフッコ、セイゴ、スズキと呼びます。東京を出荷先ににらんでいるところではコハダも出世魚として扱っています。すし種で一カン握りになるシンコ、コハダ、コノシロと成長していきます。コハダの場合、大きくなるとおいしくなるというわけではありません。庄内でも捕れますが、買っていく人はいません。

いろんな派生語が生まれていておもしろいのがボラです。オボコ、スバシリ、イナ、ボラ、トドの順ですが、オボコからおぼこ娘が生まれました。うぶな女性のことですね。イナはイナセに通じ、男気のある粋な若者のことです。トドはとどのつまりを指し、大型のボラが泳ぐ様から出てきたのではないかと思われます。庄内ではボラは食用として扱われませんが、山陰地方では卵巣を塩漬けにして珍味のカラスミにします。旬の時はおいしいのですが、この辺では見た目の悪さも敬遠される理由でしょう。

おめでたい魚は、色が赤く鮮やかな外観に由来するものと、言葉の語呂合わせで縁起を担ぐものとに大別されます。地方によって違いますが、南の方はエビスダイ、フリソデエビ、アサヒガニなどをお祝い事に使うそうです。聞くだけでおめでたい感じがしますね。沖縄にはアカジンという魚があります。北陸では酒田で柳の舞と呼ぶアカラ、青森ではキンキ、太平洋岸ではキンメダイがきれいで色鮮やかなためお祝い事に使われます。キンキはキチジとも呼び、漢字で吉次と書きますから、語呂合わせもあるのかもしれません。下関や九州ではフグをフクとも呼び、福を呼ぶおめでたい魚とされています。全国共通のめでたい魚はタイですが、お祭りのシーズンに詳しく述べたいと思います。淡水魚ではコイです。貝類ではアワビ、ハマグリがおめでたいものとして扱われています。

めでたい席に魚介類が出されたのは、魚や肉はふだんは食べず、魚自体がおめでたい席につくものというイメージがあるのかもしれません。アワビは、大漁旗や重箱のデザインにも使われています。昔は薄く切って乾燥してのばしたものをノシアワビと言い、のしに使っていました。ある料亭のご主人に聞いたら、魚のひれを乾かしてのし代わりにすることもあったそうです。

めでたい魚を食べるなら、ブリやタイ類は手に入りやすいと思います。庄内ではタイの刺し身やコダイの塩ふり焼き、マスの焼き物、エビ焼きなどがおめでたい席に使われます。マスにはますます繁盛の意味が込められているようです。尾頭付きに対し、切り身は忌み嫌われてきました。1匹丸ごというのは縁起がいいということでしょう。

庄内浜の現況に話を移すと、刺し網漁でクチボソとアカガレイ、はえ縄漁でメバル、ヤリイカが揚がっています。しけの日も多く、価格は高めですが、船が出れば数が捕れるので、安く召し上がることができると思います。産卵後の魚が多いので、味を付けるなど多少手を加えることをおすすめします。

(鶴岡水産物地方卸売市場手塚商店専務・手塚太一)
2006年3月10日付紙面掲載

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