2024年12月3日 火曜日

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地域情報化セミナー「地方に求められる情報産業企業」

「最新の地域情報化状況と地方における情報産業企業の必要性」(3)

GLOCOM助教・研究員 庄司昌彦氏
講演する庄司氏の写真

ここからは、先進的な事例を具体的に紹介していきたいと思います。最初は兵庫県の「ひょこむ」です。運営しているのはインフォミームというインターネットサービスプロバイダの会社です。民間が運営しているSNSですが、兵庫県庁も積極的に活用しています。ひょこむで非常に興味深いのは、「オフミ(オフラインミーティング)」という実際に会ってみんなで何かをしようという活動のです。例えば「ひょこむカー」という車をみんなでデザインしたり、地元の伝統料理を使った「姫路おでんコロッケ」という新しい食べ物を作ったりしています。そのほかにもユーザーが勝手に集まって何かを企画する「勝手オフミ」というのがたくさん行われているようです。さらにひょこむの活動は、第1回目の全国フォーラムをホストしたり、全国の地域SNS運営者のネット上の拠点のひとつになったりしています。

兵庫県庁が地域SNSを積極的に活用しているということは非常に興味深いことですので少し詳しく説明します。地域自治体が自ら運営している地域SNSは、少なくとも30事例ありますが、ひょこむの場合は兵庫県庁が自ら運営しているのではなく、民間に行政が協力しているという関係です。具体的には、「地域コミュニティの再生のための地域SNS活用」という県の事業として、市民活動に取り組む住民の方々を地域SNSに誘導するとか、SNSの中で県も広報活動を積極的に行うなどといったことをしています。三千数百人のひょこむユーザーのうち、県庁職員は知事を筆頭に5、600人以上いるそうです。また、県民との情報交換・意見交換だけでなく、県庁職員限定でのコミュニティをつくって勉強会や意見交換にも活用しているそうです。

ひょこむによって兵庫県には、産・学・官・民の三千数百人の個人がつながるネットワークができました。県の人口に比べればまだ少ないですが、地域のことに関心を持ってさまざまな活動をしている人がたくさん含まれていますから、この三千数百人のネットワークの意義は大きいと思います。

さらにひょこむでは、このコミュニケーション基盤の上に経済活動や外部への情報発信などいろいろな機能を盛り込んでいこうとしています。そのひとつは地域通貨ポイントの機能です。頑張っている人にひょこむ内のポイントを10ポイントあげたり、ありがとうの気持ちで20ポイントあげたりします。このやり取り自体は数年前からある地域通貨と同じですが、SNSとつながることによってポイントのやり取りにコミュニケーションが必ず伴うようになったわけです。他には、地域のお店のための電子商店街の機能も作っています。単に「ネット上に存在するその地域のお店」というのではなくて、誰がやっているのかがよく分かるというSNSの機能を生かして、地域に根差した経済活動の基盤になっていくことを目指しているようです。それから、ひょこむの中にある面白い話題や有益な情報をSNSの外に発信していく取り組みとして、地上デジタル放送のテレビに、インターネットに接続して地域情報などを呼び出せる「アクトビラ」というサービスや、地域に入ってくる車のカーナビに地域情報を配信していこうということに取り組んでいます。

次に千葉の「あみっぴぃ」という事例を紹介します。冒頭で紹介した国民生活白書でも取り上げられている大変優れた事例です。このSNSは、千葉大学の本部キャンパスがある千葉市の西千葉という地域を対象としていまして、千葉大の学生や卒業生、地元の商店街の方々が参加しています。SNSを運営しているTRYWARPというNPOは、地域の方々にパソコン講習やサポートを提供しています。また、この地域には「ピーナッツ」という地域通貨があり、SNSが始まるよりも5年くらい前から流通しています。このピーナッツは、支払うときにお互いに握手をして「アミーゴ」と言わなければいけないという面白いルールがあります。少し恥ずかしいですが、それを言うと仲間意識が芽生える合言葉なのです。TRYWARPというNPOはピーナッツによって育てられたところもあるようで、オフィスをピーナッツで借りたり、まちづくりの活動に参加してピーナッツをもらったりしています。そうした現実社会でのさまざまな人間関係やまちづくり活動があったところにSNSを導入したわけです。

SNSの導入によってまちづくりの活動はさらに活性化しているようで「がんばれ!ニシチバ!」、「アイラブ西千葉」という活動が起こってきて、グッズを作ったり、いろいろな事業を展開したりしています。また西千葉では、千葉大出身のミュージシャンが地元の方々と一緒に音楽イベントを開催したりもしています。そのイベントの運営にもSNSが活用されています。あみっぴぃは非常に狭い地域でやっていることもあって、地元の商店会長がやっている勉強会に地元の方々と学生が一緒に参加するなど、オフラインでの「顔が見える人間関係」をとても大事にしています。そうした現実社会での交流を補完するのがSNSだという位置付けです。オンラインとオフラインとを行き来させながら、上手く地域のコミュニケーションを活性化している事例だといえるでしょう。

ところでこの西千葉の事例が成功した要因のひとつには、「大学」があると思います。単に大学があればいいという訳ではないのですが、学生は地域に新しい情報やアイデアをもたらす「よそ者」なわけです。学生たちが何かにチャレンジすることを許す風土があり、そこに大学の教員や地域の人たちも関わっている。しかも4年ごとに人がどんどん入れ替わっていきます。香川や会津でも似たような事例があります。

>> 「最新の地域情報化状況と地方における情報産業企業の必要性」(4)

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庄司 昌彦 (しょうじ・まさひこ)
国際大グローバル・コミュニケーション・センター(GLOCOM)助教・研究員。専門は情報社会学、政策過程論、地域情報化、ネットコミュニティなど。
>> 国際大グローバル・コミュニケーション・センター
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