酒田市の北部、遊佐町に近いところに宮内という地区がある。宮内菜という名前からその地区に伝わる伝統野菜かと思い口にすると「そう聞かれることもありますが、群馬県の宮内さんという人が開発した野菜だそうです」。酒田市の産直施設「みどりの里山居館」に宮内菜を出している堀庸介さん=藤塚=が笑いながら答えた。
堀家では10年以上前に栽培を始めた。新しい葉野菜を求めて市内の種苗店を訪れた母親の周子さんが宮内菜に出会ったのがきっかけだった。現在は母と子の「二人三脚」で栽培に取り組んでいる。
宮内菜はクキナやオリナなどと同じ種類の葉野菜。秋に種をまき、雪解けを待って追肥し、4月初旬から収穫する。黄緑に近い緑色で、葉はギザギザに近い。根に近い茎の部分がほかの葉物より太い。根を残して茎を折って収穫するが、側枝(そくし)と呼ばれる茎が次々と伸びてくる。2カ月にわたり「何度も収穫できる」生産者にとってもありがたい野菜だ。
「新鮮なものはゆでるのが一番です。食べてみてください」。取材で堀家を訪れると、テーブルに採りたての宮内菜が並んでいた。黄緑色は鮮やかな緑へと変わっていた。生の時は硬そうに見えたが、口に入れると柔らかく、甘みが広がる。上品な味わいだ。かつお節としょうゆ、からしじょうゆ、ごま和えで食べてみた。どれも野菜のうまみを十分に引き出している。
「いため物やみそ汁など何にでも使えます。豚肉や鶏肉といためると相性がいいんです。小松菜よりもくせがない。根元に近い茎の部分が一番おいしいですよ」と教えてくれた。ビタミンA、カルシウムがたっぷり含まれ、栄養価の面でも重宝な野菜と言える。市内の老人福祉施設からの要請で数十kg単位で納入することもある。
市内のスーパーに週2回訪れ、対面販売を重ね、消費者の支持を広げてきた。「『どう料理して食べるのですか』とよく聞かれた。消費者と対話することが大切だと思いました」。その努力が実を結び、「春になると『今年はまだかー』と言われます」。
夕食の準備は庸介さんの担当。周子さんが「私より上手」という腕前だ。鳥肉や豚肉と一緒に宮内菜をいためることも多い。しょうゆのほか、マヨネーズで味付けすることもある。おすすめレシピではオイスターソースを使った中華風のいためものを紹介してくれた。
山居館では1束84円で販売し、中町一丁目のヨッテーネにも出荷している。「朝取りのみずみずしいものを買って、その日のうちに食べてほしいです」。力強く話す言葉から若き農業者の心意気が伝わってくる。
宮内菜、豚肉、ニンニク、オイスターソース、ショウガ、塩、こしょう
2006年4月22日付紙面掲載