大型連休におすすめの庄内の果物はなんだろう。それはイチゴだ。というわけで今回は、本県のオリジナル品種で、デビュー3年目を迎えた「おとめ心」を取り上げる。イチゴの生産者を多く抱える「食彩工房いちご畑」に人選をお願いしたところ、酒田市袖浦農協イチゴ部会の部会長でもある佐藤博さん=坂野辺新田=が取材を快く引き受けてくれた。
午前6時に近くの小学校で待ち合わせし、ハウスに連れて行ってもらった。「今の時期は朝の4時ごろ、夜明けとともに収穫が始まります」。まずその言葉に驚かされた。何気なく食べているイチゴは、農家の皆さんが早起きして摘んだものだった。大事に食べないと罰が当たりそうだ。
庄内砂丘地のイチゴ栽培で1970年以降、主役の座を務めていたのは「宝交早生(ほうこうわせ)」という品種だった。味自体への評価は高かったが、すぐに実がやわらかくなるという欠点があった。産地間競争が激しさを増す中、「見た目」と「日持ちの悪さ」は評価に直結した。
てこ入れを図るため県が1989年、オリジナル品種の開発に着手。10年余りが経過したころ、ようやく「新品種候補」が固まった。2003年に佐藤さんを含む4軒の県内農家が試験栽培を行い、2年後の2005年春、農家の期待を背に「おとめ心」がデビューした。
「甘みと酸味があって香りもある。バランスのよいイチゴです」。特徴を尋ねると、佐藤さんが胸を張った。 近年の主力品種「章姫(あきひめ)」は甘みが強いのに対し、おとめ心はイチゴならではの酸味がある。章姫は果実が白くても甘いが、おとめ心は真っ赤に熟さないと糖度がのらない。全くタイプが違う。
「収穫してから4日間は大丈夫。日持ちがいいので、宅配で送るのにも向いています」。おとめ心は病気にも強く、宝交早生の欠点を補って余りある。佐藤さんは現在、作付けの半分以上をおとめ心に切り替えている。
「好きなのを食べてみてください」。お言葉に甘え、真っ赤に熟した大粒のイチゴを選んで口に入れた。酸っぱさと甘さが調和し、歯触りもいい。「甘酸っぱい初恋の味です」。おとめ心の普及に携わった県職員の女性が2年前、口にした言葉が頭をよぎった。
「おいしいものを食べてほしいので試食しながら収穫しています。味によって水加減を変えるなど微妙な調整が必要ですから」。佐藤さんの心が通ったイチゴがおいしくないはずはない。
最後におとめ心の選び方について教えてもらった。「色が赤くて光沢があるものを選んでください」。章姫にはこの「法則」は当てはまらないのであしからず。
お土産のイチゴをいただいて車に乗った。アクセルを踏むと、車内に甘酸っぱい香りが広がってきた。おとめ心の特徴の一つである「香りの良さ」も実感した。
佐藤さんが丹誠込めて育てたおとめ心は、市販のイチゴより多い300g入り大玉パックが450~480円という低価格。いちご畑で6月上旬まで販売している。
2007年4月28日付紙面掲載