産直施設でホウレン草と並んでメジャーな野菜と言えば小松菜だろう。「今さら小松菜か」と思う人もいるかもしれないが、今回の素材はちょっと違う。食の都庄内親善大使の奥田政行シェフが「ものすごいパワーを持ったスーパー小松菜」と呼ぶ一押し野菜なのだ。
「稲の育種期間以外は通年、出荷しています。先輩の農家に教えてもらい、勉強しながら本格的に始めて8年ほどになります」。鶴岡市藤島地域の「四季の里楽々(らら)」で小松菜を販売している井上馨さん=渡前=が話す。
井上さんは農薬使用を極力控え、鹿児島から取り寄せる有機肥料で栽培している。「抗生物質が投与されていないニワトリの糞(ふん)で作られています。輸送費がかなりかかり、肥料というより、輸送費をまいているようなもんです」と豪快に笑う。さらにはちみつや海藻エキスなどをかけて、愛情とともにたっぷり栄養を与えて育てる。
しかし、大量に肥料分をまくだけではない。「小松菜は葉っぱという工場で光合成を行い、体づくりをしている。与え過ぎは栄養過多になる。そうすると、病気にもかかるし、虫もついてしまうから加減が必要。人間の体と同じですよ」。何事にも「適量」というのがあるようだ。
井上さんは「新鮮な葉野菜は青さだけが重視されている」と疑問を持っていた。奥田シェフとの出会いで「小松菜も生で食べるという発想が生まれた。真っ青なものに比べると、うちの肥料で育ったやや淡い色の小松菜は生でもえぐみがない」。疑問に対して一つの回答が得られた。
井上さんのハウスに連れて行ってもらった。葉っぱをさわってみる。「弾力があり、スポンジみたいでしょう」。そして葉が厚い。生命力の証しだろうか。言われるままに生で味わってみた。茎の部分がみずみずしく、葉っぱは味が濃い。驚いたのはえぐみがほとんど感じられないことだ。
「茎の部分にみそやしょうゆの実、好みのソースをちょっと載せてスティック野菜の感覚で食べてみてください。それだけで洋風料理の一品になります」と教えてくれた。「素材そのものの香りや味を感じ取れるから白カブとの浅漬けもいいと思います」。井上家では煮浸しもよく食べるそうだ。「生のままやさっと湯にくぐらせておにぎりにまいてもいいですよ」。
帰宅後、冷蔵庫に手作りハムがあったので、生の小松菜でくるんでみた。素材本来の味が分かる。野菜をあまり好まない子供たちも喜んで食べていた。翌日は白カブとの浅漬けにしてみたが、カブとの相性のよさも確認できた。色合いもよく、はし休めにも最適と思った。
おすすめレシピは、奥田シェフの元で修業し、現在は仙台に住む井上さんの長女がこのコーナーのために書いてくれたぺぺロンチーネ。今度は奥田シェフ直伝の味にもぜひ挑戦してみたい。
「口の中で清冽(せいれつ)な水がはじけてのどが潤う。まさに月山の水そのもの」と、奥田シェフがエッセーで絶賛した「スーパー小松菜」。地元のスーパーや首都圏の百貨店にも並ぶ。鶴岡市藤浪三丁目の四季の里楽々=電0235(78)2520=では250g入り1袋110円で4月まで販売している。
小松菜、ニンニク、赤唐辛子、塩、コショウ、オリーブオイル
2008年3月8日付紙面掲載