読者の方から「クロダイは庄内では磯釣りの魚として知られていますが、魚屋さんではあまり見かけません。食用として認知されていないのでしょうか。味はどうですか。おいしいとしたら旬と料理法も教えてください」という質問を頂きました。
質問にもあるように、クロダイは磯釣り魚として最も人気があります。関西地方を中心にチヌ(茅渟)とも呼ばれます。庄内の釣り人にとっては最高の釣り魚です。確かに店頭で見ることは少ないでしょう。そういう意味では、キスに似ているかもしれません。価格はあまり高い魚ではありません。旬は、1月の寒の時期から春先までです。この時期のクロダイは独特の臭みを感じさせず脂も乗っています。マダイよりもおいしいという市場関係者もいました。
釣りシーズンは大きく2つに分かれます。1つは、産卵前の岸に寄ってくる4月から5月で、「のっこみ」と言います。おなかをすかせているので警戒心も少なく、釣りやすい時期だそうです。もう1つは、ノリを食べにやってくる秋口から冬にかけてです。春とは逆に警戒心が強く、なかなか釣りにくいとのことでした。クロダイは何でも食べる雑食性の魚です。この辺では主にオキアミが釣りの餌になりますが、スイカで釣る地域もあるそうです。淡水と海水が混じり合う河口の汽水域にもいるため、秋田では「川ダイ」とも呼ばれています。
クロダイは成長に従って呼び名が変わる出世魚です。鶴岡では小さい順にシノコダイ、二才(ニセ)、コウダイ、クロダイです。この辺ではクロダイは釣りの対象魚と言いましたが、全国的にはそうとも限らないようです。東京の築地市場ではたくさん流通しています。瀬戸内海で国内全体の20%の水揚げがあり、瀬戸内地方の人たちは好んで食べているようです。刺し身やみそ漬けが一般的な料理法。瀬戸内には一匹丸ごと使って酒としょうゆで味付けする「チヌ飯」という炊き込みご飯、岡山には三枚おろしにしてゆでて身をほぐす「かけ飯」というぶっかけご飯があると聞きました。
チヌという名は、大阪湾が昔、茅渟の海と呼ばれていて、そこから付いたのではないかと言われているそうです。クロダイは真水に入れて生かしたまま流通させることが可能だったため、冷蔵庫がない時代でも鮮度を保つことができたようです。それが築地で人気のある理由かもしれません。庄内地方でもこれから、クロダイをおいしく食べる料理法が出てくるかもしれません。流通に携わる者としてそれを望んでもいます。
(鶴岡水産物地方卸売市場手塚商店社長・手塚太一)
2010年7月9日付紙面掲載