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春もうまい地物イワシ

読者から「鶴岡市の広報紙のインタビュー記事に『昔は天神祭のごちそうの定番は孟宗汁とイワシの酢みそ和え。孟宗とイワシが盛りだから』と出ていましたが、イワシの旬は秋だと思っていました。今の時期のイワシはおいしいのでしょうか」という質問をちょうだいしました。

天神祭でイワシを食べたという話は私も初めて聞きました。うちの社長の子供時代、天神祭に出る魚はマスとタイだったそうですから、もっと年配の人の経験談だと思います。イワシは、数十年から100年余りの周期で大発生と衰退を繰り返してきました。なぜなのかは不明で、定説はまだ固まっていません。20、30年前はたくさん捕れていましたが、最近は数が少なくなりました。広報紙に載った方の幼少のころはイワシが大漁だったのかもしれません。

サンマやサバと並ぶ大衆魚だったイワシですが、最近は高級魚になりました。写真は地物のイワシです

昔は庄内浜でも流し網漁や定置網漁、刺し網漁でイワシを捕っていました。主流は流し網漁で、今でもマス漁では流し網が使われています。潮の流れに沿って網を流すという方式です。

イワシは回遊魚で周年、つまり一年を通じて産卵するそうです。特に初春に産卵する場合が多く、春に北上し、秋に南下します。南下するイワシを「下りイワシ」と呼び、脂がのっています。春に北上する際、卵を抱いて庄内沖を通り、その時期に合わせて庄内で漁をしたのでしょう。鮮度のよいものがたくさん捕れたことでしょう。酢みそ和えというのは生食ですから、当時は地物でないとできなかったと思います。

イワシは秋から冬にかけて旬を迎えます。うちの社長も昔は春によくイワシを食べたそうです。今年もたまに地物のイワシが揚がりますが、卸売で1kg当たり1000円以上ととても高いです。大衆魚からかけ離れた存在になりました。北上するイワシをブリやマグロなど、イワシを餌にしている魚が追いかけていくので、大きな魚が捕れるそうです。

捕れる季節が変わるというのはタイにも言えることです。昔は、マダイは天神祭りのころは揚がりませんでした。先週はタイが豊漁で値が下がりました。するとヒラメなどの白身魚の価格も下がります。魚が捕れる周期も変わっていくのです。

イワシはアミノ酸のバランスがよく、良質のタンパク質も豊富に含まれ、好んで食べられてきました。動脈硬化の予防効果もあります。卵を抱いたイワシは塩ふり焼きや、素焼きでしょうゆをかけて食べるとおいしいです。甘露煮や佃煮にする際は梅干しを入れるとくさみ取りになります。浜の人はぬか漬けを自分で作ります。

昔は、魚市場は昼ごろまで開けていましたが、その当時は市場内のあちこちにイワシやハタハタが落ちていたそうです。価格が安い大衆魚だった時代のことです。先日、鼠ケ関で揚がったイワシはマダイより高値が付きました。タイは年間を通じて高級魚ですが、天神祭で食べるころは漁獲量があり、安くて新鮮なものが手に入りました。サクラマスも出始めは価格が高いですが、祭りのころは値が下がります。1匹丸ごとみんなで食べられる魚だから祭りに使われたのでしょう。最近は仕出し料理を取る家が多いようです。様変わりしてきているかもしれませんね。

ちなみにわが家では、祭りで仕出し料理は使いません。タイは刺し身とお吸い物に、マスは焼き物とあんかけにします。これで4品です。1匹でいろんな料理ができるのもタイとサクラマスが普及した理由でしょう。あとは山菜類などが加われば、祭りのお膳ができあがりです。次回はタイを取り上げたいと思います。

(鶴岡水産物地方卸売市場手塚商店専務・手塚太一)
2006年5月17日付紙面掲載

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