私は、藤沢さんが海坂藩をみる眼は農民のそれであると感じることがあります。『蝉しぐれ』や『風の果て』を読んでいると、藤沢さんはやっぱりご自身が農業をしていた人で、茄子畑へ水を遣り、田圃で稲を刈り、稲を運んだ人でなければ判らないような視点が確かにあると思います。殊に『風の果て』には農民の目を通して武士たちを見ているものがあると感じられました。
今、はっきり言って農村は疲弊しています。エッセイにも自分が生まれ育った故郷は、もう昔のままではないという苛立ちが感じられます。自分の中にある農村風景は徐々に荒廃の方へ向かっているという危惧が藤沢さんにはあったのでしょう。
月山の麓にある天保堰へ行ってきました。江戸時代の祖先が200年、300年後の庄内平野を潤すことを夢見て造られた堰を眺め、先人の故郷を愛する心に打たれ、環境を大事にする政策がない国は駄目になると痛感しました。
皆様、ぜひ最後まで故郷をこよなく愛した藤沢先生の作品を、鶴岡と首都圏の架け橋としてお読みになってください。
(首都圏つるおか会総会記念講演より)