作家・藤沢周平の作品を映画化した「蝉しぐれ」(公開中)の庄内ロケで、鶴岡市羽黒町にある「1本の枯れ木」をバックに撮影したシーンが、隠れた人気スポットになっている。県外観光客を中心に「映画のスクリーンではとてもいい雰囲気を出していた」「実際にこの目で見てみたい。どこにあるのか行き方を教えてほしい」と注目を集めている。
この枯れ木は、羽黒町中川代集落方面に向う県道沿いにある。高さは4m前後で、地元のお年寄りによると「キリ」とみられるが、いつごろ枯れたのかははっきりしないという。山あいに位置するこの地区はかつて、水田の開拓が行われたが「そのときに1本だけが伐採されずに残ったのだろう」と推測する。
「蝉しぐれ」の黒土三男監督がロケの候補地探しに近くを通りかかったとき、あぜ道にぽつんとたたずむ枯れ木に着目。「ロケーション的にいい」「映画の神様が私をここに導いてくれた」と表現するほど、お気に入りの場所だ。
国指定史跡「松ケ岡開墾場」の蚕室を改修し、庄内ロケの写真などを展示した「蝉しぐれ資料館」の担当者は「映画が公開される前、ここに訪れる観光客は1日平均して80人ぐらいだったが、公開後は150人を超えるようになった。そのお客さんからよく質問されるのが『1本の枯れ木』がある位置関係。映画好きな人にとってはスクリーンに映った所を生で見たい、という気持ちが強くなるのだろう」とファン心理を探る。
鶴岡市羽黒庁舎観光課は「1本の枯れ木が観光客をひきつけていること自体、面白い。地元にとっては、とても喜ばしいことだ」と話し、今後、地域の観光振興に役立てていくことも検討している。