樹上脱渋の技術で生産した庄内柿の新ブランド「庄内柿しぐれ」が昨年11月から、関東や関西の市場に初出荷されている。日持ち性やパリパリとした食感などが特徴で、甘柿を好む関東、関西での販路拡大に期待が高まっている。
「柿しぐれ」は、実がまだ青い状態の時に固形アルコールを入れたポリ袋をかぶせ、気化するアルコールで渋みを抜く樹上脱渋技術で生産された庄内柿(平核無)。収穫後、二酸化炭素やアルコールを吹き付ける従来の方法で渋抜きした柿より、
などの特徴をもつ。
柿の樹上脱渋技術は2002年、酒田市の県庄内総合支庁農業技術普及課産地研究室が県内の気候に適した袋がけの時期などの研究をスタート。03年には同研究室で試験栽培し、昨シーズンは酒田市や遊佐町の栽培農家に試験栽培を依頼した。収穫後に販売したところ、通常の庄内柿の倍以上の高値で取り引きされた。
県では、試験栽培の段階はクリアできたと判断。昨年5月、同総合支庁農業技術普及課、全農庄内本部など農業関係団体を網羅した組織「樹上脱渋柿ブランド化推進協議会」を立ち上げ、生産を本格化。収穫時にL(220g)以上の大きさとし、糖度も14度以上の甘さを目標とした生産マニュアルのもと、酒田市や鶴岡市などの約160人農家が生産し、約16トンを贈答用として出荷した。
また、ネーミングの柿しぐれは、
名付けた。既に商標登録も済ませ、同協議会では売り込みに並々ならぬ意気込みで臨んでいる。
本格出荷を前にした昨年11月10日、酒田市の全農庄内本部で関東、関西、仙台の市場関係者を招いての試食会も開いた。デザート感覚で食べてもらおうと、皮付きと皮なしの薄くスライスしたり、「食の都庄内」食の親善大使でレストラン欅(酒田市)の太田政宏総料理長がシャーベットやサラダ、タルトに調理して高級感を演出した。
関東の市場関係者は「甘柿に似ている歯ざわり感とサッパリした食感に驚いた。ゴマも食味をそそる」と話し、大阪の関係者は「皮をむかなくて食べられる点が若い世代にも受け入れられる。日持ちが長ければ正月に柿を食べる習慣のある地域で消費できるのでは」などと話し、それぞれ好評だった。反面、「いい柿なので量の確保と販売時期が今後の課題」「庄内柿は小玉という印象が強い。大玉を揃えなければ厳しい」といった、従来の庄内柿とは差別化したブランドとする提言が少なくなかった。
こうした意見を受け、県では「外観、大きさも含め差別化を図り、来年以降の栽培面積を広げたい。関東、関西の市場をターゲットに贈答用ブランドの確立につながれば」と話す。
だが、袋がけの作業時間が100個あたりで50分掛かる手間や1個あたり約5円のコスト、大玉化の維持と、早々に収穫量を増加させるには課題が残っている。また、庄内柿の大消費地となっている北海道や地元庄内では、トロリとした食感が今なお受け入れられていることもあり、一気に主流となるにはまだ厳しい状況だ。
01年には庄内地方で983haだった生産面積が04年には941haに減っている中、新たなブランド「柿しぐれ」が起爆剤となるのか、今後の取り組みが注目される。