産直施設を巡っていると、「庄内でこんなものも作っていたの?」と思うことがある。今回、取り上げる素材もその一つ。冬場の食卓には欠かせないエノキダケだ。
「鶴岡で今も栽培しているのはうちだけだと思います。今年は暖冬で鍋物への利用も伸び悩んでいるみたいですね」。鶴岡市の百万石の里「しゃきっと」にエノキダケを出荷している阿部富子さん=馬町=が苦笑いする。
「冬場の仕事確保のため」と1978年に栽培を始めた。本場の長野県に研修に行き、最初の10年ほどは毎年、研究会にも参加して技術を磨いた。「栽培歴28年ですからいろんな経験をしました。殺菌がうまくいかなくて、何十万円分をむだにしてしまったりして」と振り返る。
このコーナーで以前に取り上げたエリンギと同様、エノキダケも菌床栽培のキノコだ。出荷まで55日間を菌舎で過ごすが、「キノコの中で一番雑菌に弱い」ため、温度管理の徹底が求められる。「殺菌から数えて6回部屋を引っ越します。各部屋にエアコンが付いていて、一番低い部屋は気温を4度に保つのです」と解説する。
菌床に使うおがくずは、杉と米ぬか、小麦の皮のかすで作るふすまが原料。「米ぬかが大半で『栄養剤』の役目を果たしています。すべて再利用品。でも栽培は完全無農薬ですよ」と胸を張る。
阿部さんの菌舎に連れて行ってもらった。エノキダケが生えている容器が入ったコンテナが所狭しと並ぶ。顔を出したエノキダケの回りは白い紙のようなもので覆われている。「プラスチック製の巻紙です。出荷の1週間前にくるりと巻いてやります。酸欠状態にして上に伸ばしてやるんです。12cmほどに成長したところで収穫します。毎日が仕込みと収穫の連続。息つく間もない忙しさです」と笑う。
スーパーのエノキダケは1株が束のようになっているが、しゃきっとには袋入りを出荷している。根の部分を切ったものと、すぐに使える長さに切り落としたものの2タイプがある。「産直用は私の担当。見た目の悪い物などを中心に出しています。切る手間が省けて使いやすいとお客さんも喜んでいるようです」と話す。
エノキダケは低カロリーでビタミンB1、食物繊維を豊富に含み、便秘解消や生活習慣病の予防などに効果があるのだそうだ。阿部家では鍋物やお汁、おでん、葉物との和え物、ひじきとの煮物などに活躍している。
阿部さんのおすすめレシピは自ら考案したエノキとゴボウとのスタミナ空揚げ。「定番料理じゃない方がいいでしょ。香り付けになるニンニクを入れないとおいしくない。下味もついていてビールのおつまみに合います」と教えてくれた。
「エノキは昔からある食材で何にでも使えます。年配の人も軟らかくて食べられると言ってくれます。しゃきしゃき感がいいですね」。手間暇かけて作るエノキには阿部さんの愛情が注がれている。
売れ残ったものは「キノコは呼吸しているので、翌日は香りがきつくなるから」と持ち帰るから鮮度も抜群。現在は200グラム入り90円で販売。しゃきっとのほかJAグリーン産直館の店頭などでも4月末まで扱っている。
エノキダケ2株、ゴボウ中1本、ニンニク1かけ、市販のだししょうゆ、 小麦粉、かたくり粉、揚げ油
2007年2月17日付紙面掲載