青木 政則 (山形県立日本海病院内科・消化器科医長)
近年、肝がんは増加傾向にあります。成人では、肝がんの約9割は肝細胞がんです。わが国の男性のがんによる死亡数では、1位の肺がん、2位の胃がんに次いで第3位が肝細胞がんです。女性の肝細胞がんは4位となっています。肝細胞がんの原因は、日本ではそのほとんどは肝炎ウイルス感染によるものです。
わが国の肝細胞がんは、B、C型肝炎ウイルスの感染にはじまることが多く、肝炎・肝硬変と同時に存在することが大部分です。そのため肝炎や肝硬変のための定期診察のなかで肝細胞がんが発見されるというケースが多々みられます。残念ながら高度にがんが進行するまで症状は乏しいといった特徴もあります。したがってB型あるいはC型の肝炎の方は定期的に超音波検査やCT検査を受けることをおすすめします。
肝細胞がんの診断は、血液検査や画像診断により行われます。血液検査では肝細胞がんの腫瘍マーカー(AFP、PIVKA II)を調べます。腫瘍マーカーは治療の効果判定や再発の有無の診断にも有用です。肝細胞がんの画像診断は、主に超音波検査とCT検査でなされます。超音波検査やCT検査で肝細胞がんがあることがはっきりしない場合はMRI検査も考慮されます。また血管造影をすることもあります。
これらの血液検査や画像診断法で「肝細胞がん」と診断がつけられない場合は、肝臓の腫瘍部分に針を刺して少量の組織片をとり、顕微鏡で調べることもあります。
肝細胞がんの治療は肝切除、肝動脈塞栓術、局所療法(経皮的エタノール注入療法、ラジオ波焼灼療法)の3療法が中心です。この他に、放射線療法や化学療法(抗がん剤投与)もあります。肝がんの治療法は、がんのある位置や大きさ、個数、肝障害度などを総合的に考慮して選択されます。今回は「局所療法」について説明します。
この治療は、純アルコールを肝細胞がんへ注射して、アルコールの化学作用によりがん組織を死滅させる治療法です。がんの大きさは3cmより小さく、がんの個数は3個以下がこの治療の対象とされています。超音波検査でがんに正確にねらいをつけてエタノールを注射します。2cm以下のものでは、よい効果が得られますが2cmを超えると、治療成績は落ちます。がんの大きさ、数などの制限があることやがんの一部が残ってしまう危険性があるという欠点はありますが、比較的手軽に行うことができ、身体に与えるダメージも少ないという利点があります。
この治療は、超音波検査を使用しながら、専用の針を体外からがんに差し込みます。通電することによりその針の先端部分から熱が発生し癌組織を死滅させます。この治療法も2cm以下のがんがよい適応です。PEITに比べ少ない治療回数で良好な治療効果が期待できます。最近はラジオ波焼灼療法が増加しつつあります。
肝細胞がんの原因は、大部分が肝炎ウイルスです。肝細胞がんの治療は、その原因である肝炎ウイルスまで根絶するものではありません。それ故、がんが再発することも少なからずあります。再発を防止する方法については、いろいろな試みがなされていますが、確実なものはまだありません。肝細胞がんの治療がいったん終わっても、定期的なチェックが必要です。