2024年11月21日 木曜日

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郷土の先人・先覚6

吉住 留五郎

吉住留五郎氏の写真

由緒ある大宝館が人物資料館として活用されるようになった事は、文化都市を標榜する鶴岡市にとって誠に時宜を得た施策であると存じます。そしてその資料の蒐集・整理を担当され、立派に開館の運びに至るまで調査研究を進められた加藤達也先生の並々ならないご労苦に対し、深甚の敬意を表します。

展示されている人物の中に嘗て60数年前、旧鶴中時代同級生であった「吉住留五郎さん」がおられる事を大変嬉しく思っております。40歳に満たない若さで生涯を閉じ、活躍した場所が遠く故国を離れた東南アジア地域であっただけに一層その感を深く致します。

吉住さんは同級の仲間に「留ちゃ留ちゃ」の愛称で親しまれる人気者でした。小柄でいかにも農家の息子らしい色黒の精悍なまなざしで、私も小柄ですので柔道の時間にはよく稽古相手になりましたが、投げられても決して相手から体を離さずに、ただでは負けない「負け惜しみ」の強さなど不屈の気性の持ち主のようでした。

しかし、一方剽軽でよく人を笑わせる茶目っ気たっぷりの側面があり、そんな人柄が同級生に人気のあった所以でもありましょう。勉強の方はあまり力を入れず、成績の良し悪しなどには一向頓着しない、至って恬淡としている点など、ガリ勉連中とは対照的でした。

宿題などほとんどやってくる事はなく、先生の気もませる点では人後に落ちないものでした。たまにみんなに「おめのおかげでみんな叱られるのだめだ」と小言を言われて「までまでおめなみせれちゃ」と仲間のを借りて大あわてで写したりする光景など、ほんとに憎めない愛すべき悪童振りでした。

小りこうさ・小ざかしさ・見栄や打算は彼の最も嫌いな肌合いでした。直情な彼はそれを勉強ぎらいという素振りで表したのかも知れません。その意味では彼は学校一の正直者と言えましょう。

クラブは野球部でしたが、私は陸上部だったので放課後グラウンドでの練習振りを終始見ましたが、教室の授業時とは全く打って変わった猛練習ぶりで、小柄な体を無尽に駆使してボールに食らいついてゆく逞しい姿でした。守備は三塁手でしたが、他校の試合で相手打者のむずかしい打球を見事に捕球して、ハッシと矢のような速さで一塁に送球し、応援席から万雷の拍手を浴びる、こんな姿が吉住さんの面目躍如たる所であり、中学生活の生き甲斐だったのかも知れません。

遠く外地に在って民族の独立運動に情熱を燃やし続けた不屈の魂は、生来の資質に加えて中学時代に野球選手として活躍する中で磨かれた面も大きいと思われます。

(筆者・小杉寿雄 氏/1988年5月掲載)
※原稿中の地名や年などは紙面掲載当時のものです。

プロフィール

吉住 留五郎 (よしずみ・とめごろう)

生来豪放磊(らい)落、熱血人でインドネシアの独立に命を捧げた。

吉住善太郎の五男として井岡の農家に生まれ、鶴岡中学校を卒業後の昭和11年、インドネシアジャワ島のジャンジュール市に渡り、日蘭商業新聞の記者となる。

オランダから独立をめざす現地人とともに独立運動に力を入れ、強制送還などの迫害に苦しみながらも、19年には独立塾をつくり、ゲリラ活動を展開。23年ジャワのセゴン山中で病死。

東京愛宕の青松寺には「独立は一民族のものならず、全人類のものなり‐スカルノ‐」の碑がある。

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