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地域情報化の未来像を探る 地域情報化フォーラム

ウェブが創る新しい郷土~地域情報化のすすめ~(4)

評論家・丸田一氏
講演する丸田氏の写真

「第四空間」。これは宮台真司という社会学者が提唱した言葉です。子どもを中心に社会をみると、学校、家庭、地域社会という異なる空間が取り巻いていることがわかります。学校では「良い子」「できる子」が喜ばれます。ただし昔は「できない子」でも家庭の中では面倒見が良かったり、地域社会の中ではお年寄りと仲良かったりといったように、別の空間の別の価値観によって子どもが救われていました。しかし高度経済成長期を経て、地域社会が縮小し、家族は核家族化することで、相対的に学校の占める割合が高まり、学校的価値観がまん延してしまいました。

家庭も「良い子」「できる子」という学校的価値を持つようになり、結果として悪い子、できない子の居場所がなくなってしまいました。そういう子どもたちは、学校でも家庭でも地域社会でもない「ストリート」を居場所にするようになりますが、これが「第四空間」といわれるものです。そしてインターネットの登場後はWeb空間がストリートの役割を引き継いでいます。モバゲータウンという携帯電話のコミュニティサイトがありますが、そういったところにたむろして、仲間同士コミュニケーションしたり、自分の居場所をつくっていたりします。

商業の例と子どもの居場所の例を取り上げましたが、あらゆる意味でWeb空間が新しい人間活動の場になっていると考えるべきだと思います。Web空間は情報がアップロードすることによって現実空間のミラーとして誕生したのですが、場として現実空間とは全く違う特性を持っています。いくつかあるのですが、Web空間には、いったん上がってしまった情報が「コピーフリー」となるという特性があります。そのことによって、現実空間にあるさまざまな秩序が見直されようとしています。中でも問題なのが「著作権」や「知的財産権」です。そして、それと同じくらい問題なのが「情報とはどこにあるべきなのか」という情報の所在の問題です。

“自分の”情報であるはずなのに手が届かないところにあるといった事態がそこかしこにみられます。例えば、個人情報はいったん企業などに提供してしまったら、個人情報保護法で守られているとはいっても、どのように扱われているか分かりません。また、自分のパソコンの中にある情報は自分が死んだとき一体どうなるのか不安に駆られることはありませんか?

芥川賞をとった絲山秋子さんの『沖で待つ』は、それをテーマにした小説です。公立図書館もよく問題になります。例えば県立図書館や市立図書館はそれぞれ蔵書数が決まっていて、若干の選択はあるものの、どの図書館も同じ書籍をそろえています。それは書籍をコピーしてきたということです。しかし、Web空間の登場でコピーの意味がなくなってくると、公共図書館は一体何を集めたらいいのか解らなくなるわけです。

結論からいうと、コレクションに転じるべきですね。コピーできるものはWeb空間でコピーされてしまいますから、全国各地で同じ資料をそろえても仕方ありません。そこで、その地域にしかないものを置いておけば、一次情報として世界中からこれを取りにくることになります。例えば、地元商店街のチラシなどは国会図書館にもないわけで、そういった地域情報こそコレクションの対象であり重要視すべきです。他にもWeb空間の特性として、「集団形成」が大変得意という点があげられます。SNSはグループや集団をつくる道具であり、SNSの伸張はこのことを良く表していると思います。

このように、Web空間は現実空間とは異なる多くの特徴を持っています。我われはこの二つの性格の異なる活動の場をうまく使い分けていかねばなりませんが、その際、新しい問題が浮かび上がっています。それは、社会的な主体という存在自体が曖昧になっているということです。Web空間においても自分という主体の範囲内に自分という主体が持つべき情報があるべきですが、その境界を平気ではみ出して情報が出て行ってコピーされ、また反対に他人が持つべき情報を持ってしまって責任を負わなくてはいけないというように、今まではあまり考えられなかった混乱した事態が生まれています。

こうした問題に直面しているのが企業という主体です。

「ウェブが創る新しい郷土~地域情報化のすすめ~」(5)

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丸田 一(まるた・はじめ)
UFJ総合研究所主席研究員、国際大GLOCOM教授副所長などを務め、一昨年から評論家活動を展開。『ウェブが創る新しい郷土』などの著書がある。
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