このように藤沢さんの子供時代から26歳までは、庄内の農村風景と共に生きた時代であった。ところが、24歳の時に肺結核にかかり、2年後その治療のために東京へ行き、そのまま故郷から離れて東京で一生を暮らすことになる。山形師範学校を出て、湯田川中学校の教師となったのも束の間、たった2年ほどで病気のため退職を余儀なくさせられたのである。藤沢さんは故郷を一生思い続けた。そして46歳のとき『暗殺の年輪』で直木賞を受賞し、以後時代小説作家としてその名を日本中に轟(とどろ)かせた。時代小説であるため、若い人には敬遠されがちであるが、内容は決して私たち現代人と遠くはない。むしろ時代小説よりも身近な感じがする。確かに江戸時代で、藩という組織の中に生きる人間の話ではあるが、家庭のこと、子育てのこと、男女の愛、権力闘争、男の友情など、人間社会には普遍のテーマが描かれている。