2024年12月3日 火曜日

文字サイズ変更



  • プリント用表示
  • 通常画面表示

藤沢周平書籍作品あれこれ

不幸せな女(1)

藤沢周平さんの作品にはさまざまな人物が登場する。武士、浪人、町人、農民。年齢もこどもから老人まで、男も女も、あらゆる層の人物が描かれ、それぞれの人生、生活が展開される。ここでは、「海坂」もの、といわれる作品群の中から、さまざまな人間像を取り上げ、作者藤沢周平さんの人間観、人生観などを探ってみたい。

まず初めに『玄鳥』の女主人公・路(みち)と『潮田伝五郎置文』に登場する七重(ななえ)の2人の女性から、女の幸、不幸についてどのように描かれているかを見てみよう。

『玄鳥』の路は、海坂藩で代々物頭を務める家に生まれた。父親は200石の禄をいただき、物頭として仕える他に、舞外流の剣法の指導もしている豪胆な男であった。兄がいて、妹と4人家族の少女時代は、路のもっとも幸せな時期であった。母親は早逝してすでにいなかったが、父の剣の弟子が多く出入りし、家庭の雰囲気はいつも温かかった。

しかし跡継ぎの兄が、ふとした病がもとで急死し、長女の路が婿をとることになる。その婿、つまり路の夫となったのは、350石の上士の次男で、仲次郎という男である。仲次郎の実家は御奏者を任とする家柄で、路の家とは違う雰囲気の家であった。性格的にも仲次郎は父親と正反対で、神経質であった。それでも路の父親が生きているうちは、路も夫のそういう性格に特別違和感を抱かなかったようだ。父が死に、仲次郎が一家の主人になると、徐々に家庭の空気が変わってゆく。その2人の間に広がってゆく、越えられない溝のようなもの、を象徴するのが「玄鳥」騒動である。毎年、春になると巣を作り、人家近くで子育てをするつばめ。そのつばめが門の軒下に作った巣を取り外すように命令する仲次郎に、路はとまどいを覚える。しかも、巣の中には子つばめもいたのであるが、仲次郎は容赦しなかった。当主である仲次郎の命令は絶対である。下男が巣を壊したときの親鳥たちの、悲痛な鳴き声が路の心に刺さった。

「不幸せな女(2)」へ続く 

(筆者・松田静子/鶴岡藤沢周平文学愛好会顧問)
海坂かわら版
トップページへ前のページへもどる
ページの先頭へ

ニッポー広場メニュー
お口の健康そこが知りたい
気になるお口の健康について、歯科医の先生方が分かりやすく解説します
鶴岡・致道博物館 記念特別展 徳川四天王筆頭 酒井忠次
酒井家庄内入部400年を記念し、徳川家康の重臣として活躍した酒井家初代・忠次公の逸話を交え事績をたどる。
致道博物館 記念特別展 第2部 中興の祖 酒井忠徳と庄内藩校致道館
酒井家庄内入部400年を記念し、庄内藩中興の祖と称された酒井家9代・忠徳公の業績と生涯をたどる。
致道博物館 記念特別展 第3部 民衆のチカラ 三方領知替え阻止運動
江戸幕府が3大名に命じた転封令。幕命撤回に至る、庄内全域で巻き起こった阻止運動をたどる。
致道博物館 記念特別展 第4部 藩祖 酒井 忠勝
酒井家3代で初代藩主として、庄内と酒井家400年の基盤を整えた忠勝公の事績をたどる。
致道博物館 記念特別展 第5部 「酒井家の明治維新 戊辰戦争と松ケ岡開墾」
幕末~明治・大正の激動期の庄内藩と明治維新後も鶴岡に住み続けた酒井家の事績をたどる。
酒井家庄内入部400年
酒井家が藩主として庄内に入部し400年を迎えます。東北公益文科大学の門松秀樹さんがその歴史を紹介します。
続教育の本質
教育現場に身を置く筆者による提言の続編です。
教育の本質
子どもたちを取り巻く環境は日々変化しています。長らく教育現場に身を置く筆者が教育をテーマに提言しています。
柏戸の真実
鶴岡市櫛引地域出身の大相撲の元横綱・柏戸の土俵人生に迫ります。本人の歩み、努力を温かく見守った家族・親族や関係者の視点も多く交えて振り返ります。
藤沢周平の魅力 海坂かわら版
藤沢周平作品の魅力を研究者などの視点から紹介しています
郷土の先人・先覚
世界あるいは全国で活躍し、各分野で礎を築いた庄内出身の先人・先覚たちを紹介しています
美食同元
旬の食べ物を使った、おいしくて簡単、栄養満点の食事のポイントを学んでいきましょう
庄内海の幸山の幸
庄内の「うまいもの」を関係者のお話などを交えながら解説しています

株式会社 荘内日報社   本社:〒997-0035 山形県鶴岡市馬場町8-29  (私書箱専用〒997-8691) TEL 0235-22-1480
System construction by S-Field