立派な男、仕事のできる男、切れ者、と評され、信頼されている男が、必ずしもよい夫とは限らない。江戸時代の武家の掟の中で生きる男女の越え難い溝を作者の藤沢さんは静かに見据えている。力によって支配される世の中、そして家の中。そこに生きる女の幸、不幸は千差万別。それぞれの作品を通してその幸、不幸のよってきたるところを考えるのはとても興味深い。
ここに取り上げた2作品の女性は、少女時代の幸せと結婚後の不幸せという対比が共通点としてあった。「家」という場を考えさせられる点や、男性の生き方をつく点でも共通している。
人の幸・不幸を外から測ることはできない。傍(はた)から見て申し分ない男に嫁いだのに、充たされることなく、虚しい毎日を送る不幸せな女・七重と、立派な家柄の出てある夫を婿として迎え、子供にも恵まれ、広大な屋敷の奥様の暮らしをしながら、冷え冷えとした家庭に耐えてゆこうとする路の姿を通して、予測しがたい人間の幸・不幸の有様を考えたが、逆に、外から見ると決して幸せな境遇にあるとはいえないのに、最終的には自分なりの充足感を得た女の例を取り上げ、先の2人と対照してみたい。登場するのは『三ノ丸広場下城どき』の茂登と、『夢ぞ見し』の昌江の2人の女である。
「不幸せな女(5)」へ続く