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こんにちは元気だのー 医療:最近の話題

一般病棟における緩和ケア

坂井 庸祐 (県立日本海病院外科医長)

坂井庸祐氏の写真

「病室には家族が揃い、家族の一人が、今まさに亡くなられる患者さんのその手を握りしめている。医師はモニターで心肺停止を確認しつつあった。家族の悲嘆する様子をみて医師は自問する。『この人に自分はこれまでに何ができたのか、十分な治療をしてきたのか、最後に苦しまなかったか、十分な緩和ケアができたのか…』。医師は時計をみて死亡時刻を確認し、臨終を家族に伝えた」。

緩和ケア病棟のない病棟を一般病棟と呼び、そこでも緩和ケアは可能です。実際にこの緩和ケア自体は以前からどこの診療所、病院でも行われてきたことで、新しいことではありません。

しかし、今まで緩和ケアは医師個人個人に任されていたことで、多くは組織的、系統的には行われてきませんでした。そのために、最後の看とりの時になって、いろいろな意味での力不足を痛感させられることがありました。これは医師、看護師に限らず、その患者さんに関与した医療スタッフの共通の意識です。たとえば“痛み”に関しての治療が病気の全経過を通じて十分であったのか、ある時は薬の使用が適切であったかどうか、不必要に痛みを継続させていなかったのかどうかなど。

緩和ケアを提供するためには、主治医以外の多くの職種の協力が必要となります。医師は痛みの診断(原因、部位、程度、持続時間)を行い、薬剤師と相談しながら薬投与法、量を検討する。看護師は患者さんと痛みを評価し、それに対応した薬の増減、変更を医師と薬剤師に促す。これを経時的に評価検証してはじめて、その治療が納得のゆくものとなります。

しかしながら緩和医療を行うにあたっての痛み治療のプロセスを、すべて医師に委ねることは困難であります。病院では患者さんを中心として看護師、薬剤師など各職域の病院スタッフの参画が必要であり、一方在宅の場合には訪問看護師、家族の協力があって初めて満足のいく緩和医療が可能となります。

このように緩和ケアは、患者さんを中心にそれぞれのケアに対してさまざまの職種が関与し、チームとして治療することが肝要であります。当院では平成18年1月より疼痛、化学療法、精神症状、消化器症状、手術療法、放射線治療、在宅地域連携の7チームを創設し、それぞれのケアに対応しています。

しかし現実にはなかなか緩和ケアを病院内に広めることは困難です。重要なことは、病院のスタッフ、特に医師の協力が必要です。主治医としての責任があるがゆえに、治療に関する他者の関与を拒否することも考えられます。今までの主治医中心の治療だけでは、患者さんとその家族が満足される治療を提供できないことの認識を広めていかなくてはなりません。また同時に、多方面にわたる緩和ケアの勉強を行いながら、緩和ケアの必要性を伝えていかなければならないと考えています。

病棟内の緩和ケアのもう一つの方向性としては、この治療を退院後も継続していくために地域のかかりつけの医師と連携していくことです。今までは、退院後はかかりつけの医師に任せっぱなしで、具合の悪くなった時に再び病院に戻ることの繰り返しでした。これからは地域医療との連携により、病院と地域の医療機関が継続して情報を交換し、患者さんをチームで診続ける体制を構築していくことが急務となっています。

一部の病院を除き、一般病棟の緩和ケアの活動は始まったばかりです。WHOで緩和ケアとは“患者及び家族のQOL(生活の質)の向上、並びに患者がその人らしく尊厳をもって有意義にすごしていただけるようなケアを提供する”と提唱しています。われわれはこの言葉の重みを沈思し、臨終のその時まで緩和ケアが提供できるようにすすめていこうと考えています。

2007年9月11日 up

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