2025年1月21日 火曜日

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郷土の先人・先覚174 信仰貫き愛の労働運動

富樫雄太(明治17-昭和31年)

西荒瀬村(現・酒田市)の旧家の生まれで、小地主だった富樫雄太は明治40年10月17日、日本基督教団酒田教会で洗礼を受け、熱心なキリスト教徒となった。

雄太が鵜渡川原村立町に住む酒田教会の三浦牧師宅を訪問した際、肥桶をかついで農業に精を出す三浦牧師の姿は、農業第一に考えてきた雄太を感動させ、信仰の道に入らせている。

信功に入った雄太の活動は目覚ましく、大正13年酒田町今町に教会堂を建設した時は、積極的に建設資金の調達に当たっている。当時の牧師の生活は貧しかったので、その経済援助も惜しまなかった。例えば、稲刈りや田植えなどを牧師にしてもらい、その際食事を供し、経済的支援を行っただけでなく、労働を通して信仰を深めていった。

教会のためには何をおいても駆けつけ、伝道を手伝い、教会の肥汲みも迷惑にならないようにと牧師たちの寝ている早朝にやり、肥を積んだ牛車を賛美歌を歌いながら引いていったという。

雄太はキリスト教の愛の奉仕運動として、貧しい人々に安い米を提供するために、仲間2人と酒田町浜畑に産米改良組合を作っている。利益を度外視した商いであったため資金が続かず倒産。その負債は雄太1人が背負い、長い間その借財の返済に苦労した。

キリスト教の愛の精神から、地主の出でありながら農民運動に身を挺し、また、稲の品種改良に取り組み、農民の生活向上に努めている。

雄太は大正11年、日本農民組合鳥海支部を結成。農地の再評価と耕地整理費を小作料に含めることに反対し、西荒瀬村で小作争議を指導した。しかし、農民運動を理論面よりも、小作人のためだけを考えた活動は、他の指導者とは意見の一致しない点もあり、運動から離れていったが、小島小一郎などの有力な後継者を生んでいる。品種改良では、明治末から大正にかけて、酒井金子・泉岳・泉金子の新品種を作り、その普及に努め、広く栽培された。

純粋な信仰者であり、教会の発展に心血を注いできた雄太は、冬の月下の下で教会の将来を憂い、自分よりずっと年下の同志・梅津幹三氏を抱きしめて泣いたことがあったという。

胃がんで病床に臥した雄太は「耐えなばや、身を切る痛みせまるとも、主のみ苦しみ、思いつづけむ」という三浦牧師の作った歌を詠じ、クリスマスが来るのを待っていたが、昭和31年12月18日午前1時、梅津幹三氏が枕元で歌う賛美歌を聞きながら静かに昇天した。

(筆者・須藤 良弘 氏/1989年10月掲載)
※原稿中の地名や年などは紙面掲載当時のものです。

プロフィール

富樫 雄太 (とがし・ゆうた)

明治17年生まれ。農業。地主の富樫久右衛門家の分家。不正を嫌い、正義を通す気一本の性格で無欲。それに研究心が強く、賀川豊彦に傾倒していた。人を見下すことがなく、人の面倒をよく見た。また、人々と食事を共にし、語り合うことで喜びを感じていたことで、人から好かれ、信頼された。服装はどこに行くのでも短着と紺のモンペであった。戦後の農地解放で所有地を失った時、雄太は「悔いはない、土地は作る人のものだ」と言っている。昭和31年、72歳で亡くなった。

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