2025年4月1日 火曜日

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郷土の先人・先覚64・広範囲に業績残す。屈指の偉人

松森胤保(文政8-明治25年)

松森胤保氏の写真

松森胤保は幕末から明治前半にかけて、その秀でた才覚を存分に発揮した人で、庄内が輩出した屈指の偉人とみられる。激動の時期にあって、その知識と技量は行政・教育・学問などの分野で、見事に大成している。幅広く孤高の位置にある業績は、一個人ではともて評価し得ない。

胤保は多大な著作を遺している。それらは87種、328冊と数えられ、当時の窮理学・開物学・博物学に当たる。現存の物理学・天文学・建築学・工学・動物学・植物学・歴史学・考古学・民俗学・人類学などにおよぶもので、しかもそれぞれが学史上、特異な評価を受けはじめている。日本の伝統的な学問が、欧米の科学に洗礼される中で、いち早くそれを吸収し批判的に自らの思考を創造しようとしている。

これらの著作はいずれも自筆稿本で、版行されたものではない。丹念な毛筆による叙述と、あざやかな色彩の挿図は見事である。中でも『両羽博物図譜』8帙59冊は圧巻である。走獣・飛禽・爬虫・遊漁・貝螺・飛虫・雑虫・植物に区分され、色彩豊かな写生図から成り、図鑑のさきがけともいわれる。オオカミや人魚・シロフクロウなど、珍奇な生物もみられ、庄内の動植物の分布上で貴重な資料といわれている。すでに進化論を知っており、トムゼンやラボックの時代区分も理解していた。最古の魚拓採取者であり、飛具という飛行機を考案し、写真に興味を示し、驚くほどの広範囲に学術的な足跡を残している。

胤保は文政8(1825)年に鶴岡二百人町に生まれた。あたかも鎖国の日本に外圧が加わる時で、動乱と波乱の生涯を暗示している。生家・長坂は甲斐武田から徳川、そして酒井家に仕えた家柄である。藩校・致道館で徂徠学を学び、槍術や馬術を修練する。この時期に後年の高い知性と、強烈な意志が養われたと思われる。

39歳で松山藩の付家老となってから、松山藩士を率いて戊辰戦争を転戦する。薩摩藩邸焼き打ちでは先鋒として指揮し、新庄から秋田各地で戦果をあげた。松山藩主・酒井忠良はこの功績により、松山を守った功臣として「松守」の姓を賜るが、固辞しても入れられず「松森」を姓とし、胤保を名としたのであった。

明治以降は松嶺、酒田あるいは山形県の政治・行政・教育面で活躍し、居を鶴岡に移している。晩年、奥羽人類学会の会長として学問に親しみ多くの知友を先導した。

その劇的な生涯を閉じたのは、明治25(1892)年であった。享年68歳。墓は鶴岡市新海町、禅源寺にある。

(筆者・佐藤禎宏 氏/1988年7月掲載)
※原稿中の地名や年などは紙面掲載当時のものです。

プロフィール

松森 胤保 (まつもり・たねやす)

文政8年6月21日、庄内藩士・長坂市右衛門と石原民富山の長子として、鶴岡二百人町で出生。幼名は欣之助、通称嘉世右衛門、字基伯、南郊を号す。藩校・致道館で学び、後に助教となる。文久2(1868)年に禄200石の家督を相続、翌年に庄内藩の支藩である松山藩の付家老に任ぜられる。慶応3(1867)年戊辰戦争に参戦し、各地を転戦して凱歌をあげる。翌年右近介から松森胤保を名乗る。明治以降は松山藩大参事、松嶺区長、旧藩校里仁館の惣管兼大教授、松嶺第五大区取締、山形県会議員、酒田戸長、飽海学務委員などを歴任する。明治25(1892)年4月3日、鶴岡市宝町で没する。

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