2024年12月3日 火曜日

文字サイズ変更



  • プリント用表示
  • 通常画面表示

藤沢周平書籍作品あれこれ

崩壊する家族(1)

海坂藩に登場する藩士は、石高も身分も役もとりどりであるが、その家族の構成にはある種の共通点がある作品の多さに気が付く。「老人力のあふれる人たち」でも紹介したように、妻に先立たれた侘しさをかこつ初老の男が主人公になっている例が多い。『臍曲がり新左』も妻をなくし、18になる娘と2人暮らしをしていて、偏屈この上ない老人が描かれている。『鷦鷯(みそさざい)』という作品も同じように父娘の侘しい毎日が描かれている。『鷦鷯』では、その鳥の声を聴くと「もはやこの世から飛び去った妻の魂が、あの世から何ごとかをささやきかけているかのような」幻覚を感じ「無限のわびしさに鷲づかみにされた」思いを甦らせられ、夕闇の庭に立ちつくす主人公の心情が描写されている。

老人でなくても、主人公には父、または母がいない設定の作品が多い。直木賞の受賞作『暗殺の年輪』は、父親が暗殺に失敗して斬殺され、石高を減らされた家で、母親とひっそりと暮らす葛西馨之介という青年の物語である。母も自殺し、馨之介の家は崩壊する。『蝉しぐれ』の主人公、牧文四郎の場合は、敬愛していた養父が切腹し、養母と2人、長い年月の間、不遇に耐えている。また、『冤罪』という作品では、明乃という娘が登場するが、この娘も母親は既になく、父親と2人で畑などを作り健気に生きてきたのに、その父親が冤罪で切腹させられ、近郊の農家に引き取られるという悲劇に見舞われている。

「崩壊する家族(2)」へ続く 

(筆者・松田静子/鶴岡藤沢周平文学愛好会顧問)
海坂かわら版
トップページへ前のページへもどる
ページの先頭へ

ニッポー広場メニュー
お口の健康そこが知りたい
気になるお口の健康について、歯科医の先生方が分かりやすく解説します
鶴岡・致道博物館 記念特別展 徳川四天王筆頭 酒井忠次
酒井家庄内入部400年を記念し、徳川家康の重臣として活躍した酒井家初代・忠次公の逸話を交え事績をたどる。
致道博物館 記念特別展 第2部 中興の祖 酒井忠徳と庄内藩校致道館
酒井家庄内入部400年を記念し、庄内藩中興の祖と称された酒井家9代・忠徳公の業績と生涯をたどる。
致道博物館 記念特別展 第3部 民衆のチカラ 三方領知替え阻止運動
江戸幕府が3大名に命じた転封令。幕命撤回に至る、庄内全域で巻き起こった阻止運動をたどる。
致道博物館 記念特別展 第4部 藩祖 酒井 忠勝
酒井家3代で初代藩主として、庄内と酒井家400年の基盤を整えた忠勝公の事績をたどる。
致道博物館 記念特別展 第5部 「酒井家の明治維新 戊辰戦争と松ケ岡開墾」
幕末~明治・大正の激動期の庄内藩と明治維新後も鶴岡に住み続けた酒井家の事績をたどる。
酒井家庄内入部400年
酒井家が藩主として庄内に入部し400年を迎えます。東北公益文科大学の門松秀樹さんがその歴史を紹介します。
続教育の本質
教育現場に身を置く筆者による提言の続編です。
教育の本質
子どもたちを取り巻く環境は日々変化しています。長らく教育現場に身を置く筆者が教育をテーマに提言しています。
柏戸の真実
鶴岡市櫛引地域出身の大相撲の元横綱・柏戸の土俵人生に迫ります。本人の歩み、努力を温かく見守った家族・親族や関係者の視点も多く交えて振り返ります。
藤沢周平の魅力 海坂かわら版
藤沢周平作品の魅力を研究者などの視点から紹介しています
郷土の先人・先覚
世界あるいは全国で活躍し、各分野で礎を築いた庄内出身の先人・先覚たちを紹介しています
美食同元
旬の食べ物を使った、おいしくて簡単、栄養満点の食事のポイントを学んでいきましょう
庄内海の幸山の幸
庄内の「うまいもの」を関係者のお話などを交えながら解説しています

株式会社 荘内日報社   本社:〒997-0035 山形県鶴岡市馬場町8-29  (私書箱専用〒997-8691) TEL 0235-22-1480
System construction by S-Field