2015年(平成27年) 4月4日(土)付紙面より
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鶴岡市立藤沢周平記念館(鈴木晃館長)の開館5周年を記念する特別企画展「作家 藤沢周平の誕生」が3日から同館で始まった。「オール讀物」新人賞に応募し題名だけが残されていた作品の草稿など貴重な資料が公開されており、藤沢さんが直木賞受賞まで作家として修業を積み重ねた様子が伝わってくる。
資料は、同館が藤沢さんの遺族に依頼して借り受けた草稿など約600点。文壇デビュー前に「オール讀物」の新人賞に応募したものの受賞に至らず、タイトルのみが記録に残されているのは「北斎戯画」(1965年)、「蒿里曲」(同)、「赤い月」(66年)の3作品。このうち「赤い月」の応募原稿は失われたが草稿が残されており、島送りから戻った男を近所の娘が迎え入れる場面から物語が始まっている。「待っている」(64年)、「割れた月」(73年)の2作品と共通した部分が多いとされる。
また、「蒿里曲」の草稿には、鶴岡市の総穏寺を舞台にしたあだ討ちのストーリーが書かれており、後の「又蔵の火」(74年)の原型となった可能性が高いという。さらに「暗殺の年輪」が直木賞候補になった時、「又蔵の火」を執筆していた藤沢さんは担当編集者に「今回は(「暗殺の年輪」を)候補から外してもらい、『又蔵の火』を候補として検討してもらえないか」と言ったほど一連のストーリーは思い入れが強いという。
この他、直木賞受賞作品の「暗殺の年輪」の基となったとされる草稿の数々が展示されている。中にはタイトルに続いて3行のみ書いて止まったものもあり、熟慮して何回も考え直した作家の苦悩が垣間見える。オール讀物新人賞受賞の際に贈られ、日課の散歩で生涯愛用した腕時計なども展示されており、藤沢さんの人柄がしのばれる。
同館は「開館5周年の記念に、貴重な草稿を展示する機会を頂き、遺族の方々に感謝している。藤沢さんの創作に懸ける思い、苦悩を感じ取ってもらえたら」と話していた。展示は10月6日まで。