2024年(令和6年) 7月3日(水)付紙面より
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「継続は力」はよく耳にする言葉だ。努力を積み重ね、物事をやり続けることが成功につながるとの意味合いだ。個人の意思の強さにも通じるが、こちらの「継続は力」は、個人ではなく地域や、大自然に向かっての取り組み。鶴岡市立羽黒小学校の5年生が、このほど地域の田代谷地の山中にブナの苗木を植えた。今年で25年になる活動で、植えたブナは1000本余になった。
ブナの植林は環境教育の一環。同市の「水土里ネット笹川」(笹川土地改良区)と協力した活動。活動の狙いは「山と川と海の環境を守る」。原点にあるのが山の自然を豊かにすること。そのためには山の緑、とりわけ「緑のダム」と呼ばれるブナを育てることにある。
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ブナの苗を植えて25年。息の長い活動であり、先輩から後輩へと受け継がれる学校の伝統になった。ブナ林は保水力が高く、落葉による腐葉土で作られる栄養素が川から海へと流れ込むことで、海の生き物が育つ。長く受け継がれてきた学校行事が、山と川と海の環境を守っていることを、児童は植樹することで体感する。環境保護活動の原点だ。
月山山系での自然保護活動の歴史は1970年にさかのぼる。「出羽三山の自然を守る会」発会の呼び掛けに「数年来のレジャーブームを放置すれば、近い将来取り返しのつかない事態になる。長い歴史の中で培われてきた豊富な動植物、他に例を見ない特異な地質もある。有形無形の調和を図らなければならない」などとある。山形県による、月山8合目弥陀ケ原から西川町志津に至る道路建設の測量が始まったことの危機感からの守る会設立だった。
酒田市の自然写真家、斎藤政広さんが先頃、自らの写真と文で自然の素晴らしさを訴える写真集「ブナの声Vol・32 ブナに抱かれし山々」を出版した。横浜市出身の斎藤さんは84年に酒田市に移り住んで以来、庄内地域の自然、特にブナをテーマに撮ることをライフワークにしてきた。斎藤さんの作品に人々が引き寄せられるのは、作品に「自然の大切さとは」が込められているからであろう。
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羽黒小の活動は25年、出羽三山の自然を守る会は発足54年、庄内の自然に魅せられた斎藤さんの活動も40年。人生に例えれば四半世紀から半生をかけての取り組みになる。活動の芯を貫くのは、自然は自然の姿であるべきだということではないだろうか。
壊れた自然は取り戻せない。自然保護思想は平安時代ごろからあったとされるが、自然を守るための住民運動が起こった歴史は新しいという。「森は海の恋人」で、森があって海の生き物が育ち、人はその恩恵を受けている。羽黒小の児童たちが植えたブナの苗木がすくすくと育つこと、環境保護の輪が大きく広がることを願いたい。