2008年(平成20年) 9月23日(火)付紙面より
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秋の彼岸。酒田市飛島で彼岸の1週間、毎日念仏を唱え、数珠を回す「百万遍念仏講」の伝統が続いている。祖先の霊を供養し併せて島で生きる人たちのきずなを深め、支え合って生きる昔からの習慣だ。
百万遍念仏講が行われているのは、飛島勝浦の「円福院」。彼岸の入りの20日から1週間、15人ほどのお年寄りが本堂に集まり、1時間半近くの念仏を唱えた後、「百万遍」と呼ぶ数珠回しが始まる。
おばあさんたちが輪になって座り、長さ10メートルもある大きな数珠を100回ぐるぐる回すのが百万遍だ。回した数を間違えないよう、1人が親珠(おやだま)(大きな珠)が1度回ってくるたびに、あらかじめ数を数えてあった5円硬貨などを、別の場所に移す。
祖先の霊を慰めると同時に、今生きている人たちの家内安全、豊漁、健康を祈る。鐘の音に合わせ「南無阿弥陀仏(ナムアミダブツ)」と唱えながら数珠を回すのだが、ナムアミダブツの声は、隣り合わせて座ったおばあさんたちの世間話で半ばかき消されて、よく聞こえない。
百万遍念仏講が1週間も続くのは、珍しい習慣だ。円福院の住職は、20年ほど前に亡くなってから不在だ。同院の縁続きの鶴岡市大山馬町、永福寺の進藤法明住職(48)は「彼岸といっても、1週間も続けて念仏を唱え、百万遍回しするとは聞いたことがない。いわれもよく分からないし、飛島独特の慣習、伝統でしょう」と話す。
百万遍の数珠回しで鐘をたたいていた飛島勝浦の本間勝子さん(80)は「明治生まれの姑からは『昔から伝わってきたことだから』と聞いていた。だから姑から聞いたことを守って続けている。難しいことは分からないけど、皆が集まって語らう楽しい時です」と話す。
飛島の百万遍念仏講は、春と秋の彼岸にある。参加しているのは主に70歳以上のおばあさん。目に留まったのは、念仏回しの輪を作る人の半分ぐらいが足を投げ出していることだ。本間さんによると、高齢になってひざの具合が悪い人が多くなったためだ。また、百万遍回しは午前、午後それぞれ50回ずつに分けて行う。時間がかかって疲れるため、昼食と併せて休憩をとるためだ。
飛島では高齢化が急速に進んでいる。1週間続く「百万遍念仏講」は、祖先の供養だけのためでなく、自分たちの娯楽の場でもある。狭い島だが顔を合わせる機会が少ない人もいる。日々の暮らしを語り合い、百万遍念仏講を終えると「御神酒(おみき)上げ」として、春は酒田から弁当を取ったり、秋はいも煮会などを楽しむ。
「念仏もあまり唱えないけど、仏様の前でにぎやかにしていれば、ご先祖もきっと喜んでくれていると思います」。百万遍念仏講は今を生きている人たちのものでもあるのですという、本間さんの声が返ってきた。
輪になって大きな数珠を回しながら先祖を供養し、島民の健康を願うおばあさんたち=20日、飛島・勝浦の円福院で