2008年(平成20年) 5月10日(土)付紙面より
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ホオノキに教わった循環社会 小山 浩正
「家にあれば筍に盛る飯を草枕、旅にしあれば椎の葉に盛る」。万葉集にある有間皇子の歌です。中大兄皇子の罠にはまって都を追われた旅の途中で、椎の葉を器にして食事をとる侘びしさを歌ったものです。子供のころ、母に教わったこの歌にそんな悲劇が隠れているとは知らず、木の葉をお皿にして食べるのが楽しそうで、わざわざまねしてみようとしたこともありました。
バナナなどの木の葉を器や調理器具にする文化は世界各地にありますが、わが国では、岐阜県などでみられる朴葉味噌がその代表と言えるでしょう。味噌をのせたホオノキの葉を七輪で炙(あぶ)ると葉の香りが味噌に移り、これをまぶしたおむすびは最高です。
この朴葉味噌について、かつて衝撃を受けた忘れられない事件があります。ある日、東京へ出張したついでに銀座の某有名デパートの地下食品売り場をうろついていた時のことでした。ある店舗のショーケースに、一枚一枚が丁寧に包まれて並んでいたのが朴葉味噌の葉だったのです。値札に目をやると、なんと一枚500円!。ホオノキなんて私たちは毎日のように見ています。森に行けば別に珍しくもない、ごくありふれた樹なのです。そんな葉っぱが500円とは。「都会の人間はこんなものに大枚をはたくのか。100枚あれば5万円の売り上げじゃないか。1万枚も集めたら…。むふふ、こりゃボロ儲けだぜ」。
翌日、庄内に戻った私と研究室の学生たちはいつも調査に行く森の中にいました。もちろん調査ではありません。そう、朴葉の収穫に出掛けたのです。愚かにも、師弟ともども金に目がくらんだのです。しかし、探し始めてすぐに、期待するほどボロ儲けにならないことに気づかされました。葉を食う虫がいるのを忘れていたのです。朴葉味噌の葉は食用なのできれいでなければいけません。ましてや虫食い穴がある葉などは論外でしょう。 しかし、皆さんもぜひ、そういう目で森を探してみてください。虫食いのない「完璧な葉」は意外に見つからないものです。ホオノキに限らず、どんな木の葉も多かれ少なかれ食われているのがむしろ普通の姿でした。
一獲千金はあきらめざるを得ませんでしたが、代わりに私たちは大事なことを教わったのです。食いかけの葉を通して虫の多さを知りました。見方を変えれば、森はそれだけの虫を養っているのです。この虫たちの中には、やがて鳥の餌になるものもいるでしょう。そして、その鳥たちは木の実を啄んでタネを運びます。運ばれたタネはやがて芽生えてに森なる。その葉はまた虫の餌になって…良くできた循環社会ではないですか。葉の穴から私たちがのぞき見たものは、森の生き物たちのネットワーク社会だったのです。
以来、森を行く私の目は「完璧な葉」を無意識に探しています。昔、野原で四つ葉のクローバーを探したように。こうしてまた、私の「森の時間」に楽しみが加わりました…と書けば格好はつきますが、一獲千金をあきらめきれない未練の眼差しなのかもしれません。
(山形大学農学部准教授・専門はブナ林をはじめとする生態学)
鶴岡市(旧羽黒町)海坂付近。ホオノキの花と「虫食いのない」葉=2005年6月2日、自然写真家・斎藤政広撮影
2008年(平成20年) 5月10日(土)付紙面より
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鶴岡市羽黒町高寺の雷電神社に伝わる田楽「高寺八講」(県指定無形民俗文化財)が8日、同神社の春の例大祭で奉納上演された。
室町末期ごろから氏子たちが受け継いできた豊作祈願の舞で、平安時代から続く寺院芸能の流れをくんでいるという。「八講」とは8日の祭典「八日講」を略したとする説や、演目がかつて八番あった(八つ舞い手の組)ためなど諸説ある。明治時代半ばまでは八番が舞われていたが、現在は「大小舞」「薙刀舞」「花笠舞」「稚児舞」の四番が伝えられている。
この日は地元住民たちによるくねり行列が同神社周辺を練り歩いた後、杉木立に囲まれた神社境内の八講楽殿で、狩衣姿の2人が白扇を手に舞う大小舞を皮切りに、四番が奉納上演された。
最も華やかな花笠舞では、上部に色鮮やかな花を差した四角の笠をかぶった6人の舞い手が日の丸扇とササラを持ち、太鼓や「ザリッ、ザリッ」というササラの音に合わせ力強く舞った。地元住民や祭り客は、古式ゆかしい伝統芸能を楽しみながら豊作を願っていた。
杉木立に囲まれた雷電神社八講楽殿で、氏子たちが「花笠舞」を上演
2008年(平成20年) 5月10日(土)付紙面より
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鶴岡市朝日地域の飲食店が、山菜類を中心に旬の味覚をふんだんに使ったメニュー「さと山春の御膳」を10日から約1カ月半限定で提供する。
出羽商工会朝日支部(松本壽太代表理事)の呼び掛けで、2005年から実施している。地域に伝わる郷土料理、伝統食の活用による観光振興、地域活性化を狙いに7店が協賛している。昨年は約800食を売り上げた。
春の御膳は月山ワインまたは山ぶどうジュース、デザートの山ぶどうシャーベットは同じものを使い、旬の山菜類をたっぷり盛り込むほかは、どんな料理を作るかは各店の裁量に任せてある。
8日には商工会や協賛各店関係者など約20人が出席し、同市下名川の滝太郎あさひで発表会が行われた。はじめに松本代表理事が「地産地消を生かした料理は、里山の長い歴史にはぐくまれており、地域の自慢。ぜひ皆さんから積極的にPRしていただきたい」とあいさつした。
試食会では、月山筍やウルイ入りの山菜グラタン、岩魚甘酢あんかけ、アズキ菜のごま醤油(しょうゆ)和え、ヒラタケのお吸い物、朝日産のそばの実を使用したむきそばなど山の幸をふんだんに使った料理が並んだ。出席者たちは趣向を凝らした山菜料理に舌鼓を打っていた。
さと山春の御膳は原則昼限定のメニューだが、店によっては夜の提供にも応じる。価格は税込み2500円。期間は6月22日までで前日までの要予約。問い合わせは出羽商工会朝日支所=電0235(53)3580=まで。
滝太郎あさひ以外の協賛店は次の通り。
湯殿山ホテル(田麦俣)民宿田麦荘ななかまど亭(同)米の粉の滝ドライブイン(上名川)そば処大梵字(越中山)民宿青嵐舎(大鳥)旅館朝日屋(同)
朝日地域の旬の山菜を中心とした「さと山春の御膳」