2010年(平成22年) 12月10日(金)付紙面より
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草食系男子は山の炎で恋をしろ ―里山再生シリーズpart3― 小山 浩正
外国で折り紙を見せると思った以上に喜ばれるので、今や日本人の渡航先で披露する「てっぱんネタ」となっています。でも、最初にこれをやったヒトは相当に賢いと思いませんか。いや、もしかしたらそのヒトでさえ予想以上の反響に驚いたかもしれません。自分には当たり前すぎるモノに、むしろ「外の世界」の人々が強い関心を寄せるのを見て、あらためてそれが尊い文化と気づかされることがあります。そして、森の専門家としての私もこれと似た体験をすることがあるのです。
鶴岡市が主催する里山歩きのイベントに同行させてもらうことがありますが、そうした機会に私たちが普段の調査で使っている道具などを紹介すると、これが意外にうけるのです。考えてみれば木の太さや高さを測る道具なんて一般の方には縁のない代物ですから珍品ではあります。こうして私は自分の道具に「折り紙」的な再発見をしたのです。
そこで、考えました。前回までに里山崩壊の原因は、利用されなくなってヒトの気配が無くなったのだから、今一度里山にヒトの気配を取り戻す仕組みが欲しいと述べました。ただし、それを考えるのが大変とも書きました。でも、そんなに片意地を張らずとも良いのかもしれません。私たちが森で当たり前にやっている作業が「折り紙」的なのだとしたら、それを見ていただくだけでも、少しは森がにぎわうかもしれません。
例えば、農学部の演習林では毎年のように焼き畑をして、カブを播いては収穫しています。これは学生さんの卒業研究のためにしています。実際に山を焼く時には、多くの仲間の学生が助っ人として集い、皆で炎を追います。夜は、その火を見守りながらしみじみ呑(の)むのだそうです。「真夜中の残り火を一緒に見つめていると、僕も女の子を口説けそうな気になります」と吐露した草食系男子がいました。
それで私も火が付いたわけではないですが、もしかしたら日常にこそネタがあるのでは?と気づかされます。こんなに楽しい行事を大学だけで抱え込む手はありません。例えば、「焼き畑クラブ」を立ち上げてみませんか? もちろん、山焼きがクライマックスですが、その後もカブの播種や収穫の楽しみが待っています。高温に耐える特殊な温度計で焼けたときの地表は何度まで上がるのかトトカルチョをするのも楽しそうです。賞品は焼き畑で育ったカブで、最後はその漬物やサラダの品評会をするのも盛り上がるかもしれません。
いやいや、もっと他にもネタはころがっています。樹の名を覚える実習だって、ブナの実を集める調査だって、高所作業車を使って地上10メートルの上から森を見下ろす作業も…。私たちの日常が皆さんにとっての非日常を提供できるかもしれません。サイエンス・ツーリズムと名付けましょう。森を楽しみながら学ぶ文化が、文化として意識しないほどに定着したころに、逆説的に森林文化が根付くのでしょう。そんな時がくれば、里山はおのずと、かつての姿を取り戻すかもしれません。うん、なんだか行けそうな気がするぅ?(←ネタが少々古いね)。
(山形大学農学部教授 専門はブナ林をはじめとする生態学)