2010年(平成22年) 3月16日(火)付紙面より
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酒田市黒森地区に江戸時代中期から伝わる「黒森歌舞伎」で、来年2月に行われる正月公演の演目を決める儀式「太夫振舞(たゆうふるまい)」が14日、同地区の日枝神社で行われ、若手役者による「ご神籖(しんせん)の儀」で、来年の演目は「一谷嫩軍記(いちのたにふたばぐんき)」に決まった。
「太夫振舞」は、芝居奉納を受けた神社が、役者らを招いて開く宴。この中で、水ごりで身を清めた若者が、ご神体に代わる神籖者として翌年の演目を選び出すのが「ご神籖の儀」。神事的芸能の要素を残す黒森歌舞伎独特の儀式として伝えられている。
今年の神籖者は、2月の舞台を踏んでいる地元の公務員、星川辰也さん(33)。神社でお払いを受けた後、白い下ばき1つの姿で社殿を出て境内の井戸で水ごり。手おけで7杯半の冷水を浴びて身を清め、再び神前に正座。竹の棒に付けたこよりで、一升ますの米の上に置かれた演目候補のくじ3本から1本を引き寄せた。
来年の出し物に決まった「一谷嫩軍記」は、源平盛衰記をモチーフにした時代浄瑠璃。1751(宝暦元)年に大阪・豊竹座で初演。源氏方の武将・熊谷直実は、平敦盛を助けるために自分の子を殺し身代わりにしたが、その後、無常を悟り仏門に入るという物語。黒森歌舞伎では1998年以来、13年ぶりの披露となる。
2010年(平成22年) 3月16日(火)付紙面より
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鶴岡市の慶應義塾大先端生命科学研究所(冨田勝所長)を中心に展開されているがん研究の最新情報とがん医療の将来に関するセミナー「がん医療の未来?鶴岡発 がん研究の最前線―先端医療開発特区(スーパー特区)の取り組み」が13日、東京第一ホテル鶴岡で開かれた。研究者の講演や会場との質疑応答で、先端研などを研究拠点に国の採択を受けたスーパー特区の取り組みなどを市民に紹介した。
スーパー特区は内閣府と文部科学、厚生労働、経済産業の各省が、革新的技術の開発促進を目的に共同で創設し、研究資金の重点化・集中配分などで支援する。国立がんセンター、先端研、製薬・医療機器メーカーを研究拠点とする「がん医薬品・医療機器早期臨床開発プロジェクト」は2008年度、全国24件の一つとして特区の第1次採択を受けた。研究期間は12年度までの5カ年。先端研は世界最先端のメタボローム解析技術を活用し、各種がんの診断バイオマーカーや抗がん剤ターゲット探索、抗がん剤の薬効、副作用測定システムの開発を担い、プロジェクト全体のテーマの3次元計測早期がん診断機器、新規抗がん剤などの開発に携わる。
セミナーは、鶴岡地区医師会や鶴岡市、先端研が実行委員会(会長・中目千之鶴岡地区医師会長)を組織し、市民向けに最先端のがん研究の取り組みや研究成果などを発信しようと企画した。
この日は、プロジェクトリーダーの江角浩安国立がんセンター東病院長が「超少子高齢化社会のがん医療を創(つく)るための挑戦―鶴岡と国立がんセンターが手を結んで」、曽我朋義慶應先端研教授が「鶴岡発メタボローム解析―疾患、がん研究への展開」、石田孝宣東北大医学部腫瘍外科准教授が「乳がん検診の現状と将来に向けて」と題してそれぞれ講演した。
江角院長は、仕事で忙しい若い世代はがんが進行した状態で初めて病院に来るといった実態から、日曜外来に取り組んでいる東病院の医療アクセスの改善や、新しい抗がん剤、内視鏡技術などについて解説。さらに、先端研とのつながりや、同病院のある千葉県柏地区でも庄内地区と同じく緩和ケアプロジェクトを進めていることを説明し、「鶴岡と荘内病院、慶應先端研、国立がんセンターが一緒になって将来のがん医療のために努力していきたい」と語った。曽我教授は、細胞内の低分子の代謝物群を解析するメタボローム解析技術を医療、食糧、環境の各バイオ分野に活用した先端研の取り組みを解説。医療バイオ分野では「最終的な目標としては血液1滴を測定したらすべての病気を診断できるような方法を開発したい。メカニズムではがん、疾患で変動する代謝経路を見つけ出し、これに作用する創薬の開発」が目標とした。
石田准教授は、乳がんの患者数の推移や、若年者のがんによる死者数は乳がんが最も多いことを示した上で、乳がん検診で発見される70%が早期がんであるとし、「マンモグラフィー検診の受診率が70%以上の欧米では死亡率が減り、10%台の日本は増えている。受診率が死亡率に大きく影響している」と語った。
会場には医療関係者や一般市民ら約400人が訪れた。講演が終わるたびに積極的に講師に質問し、がん医療の現状と将来の可能性について理解を深めた。