2012年(平成24年) 9月11日(火)付紙面より
ツイート
酒田市美術館(石川好館長)で9日、日本画家・堀文子さんの作品を網羅した「孤高の旅人 堀文子展」が開幕した。午後には、堀さんがクラゲも題材にしている縁で親交のある村上龍男加茂水族館長と対談。楽しい“クラゲ談議”を繰り広げ、会場をびっしり埋めた来館者を引き付けた。
堀さんは1917年、東京都生まれ。女子美術専門学校(現女子美術大)卒。創造美術など常に革新的な団体に所属し、52年には第2回上村松園賞を受賞した。99年、結成に参画した創画会を脱会してからはどの団体にも属さず、さまざまな技法を試みながら94歳になった今もなお、創作活動を旺盛に展開している。
今回は、加茂水族館のクラゲを題材にした「あかくらげの家族」(2008年)といった日本画を中心に、1940年代から最新の作品まで110点余りを展示。自然を師とし、ただひたむきに生命を見つめ続けてきた画業70年の軌跡を紹介している。
堀さんと村上館長の対談は展示会の関連企画。堀さんは7年前に同水族館を訪れた際、荒れ狂う日本海に遭遇し「素晴らしいと感じた。そこの方々も素晴らしく、一遍で子分になった」と話した。また、アカクラゲを「あんなに美しいものはない。生き物の原型を見た思い」とし、「クラゲは自分が食べられるときも食べるときも興奮しない。のどかな生命の行き来。あんな風に生きられたらいいが」と語った。
また、「絵を描くことは好きでも嫌いでもない。白い紙に向かい、最初に筆を下ろす時はいつも怖い。だからできるだけごまかし、酒を飲んで逃げている。そのうち、描こうという意識が伏流水のように体内をうごめき回り、ある時一気に噴き出して止まらなくなる」と打ち明けると、会場から驚きの声が上がった。
村上館長は堀さんに出会った際の印象を「女学生みたい。いい年をした大家なのに、荒波や地吹雪などを見て、はしゃぎ回っていた。普通でないことが好きなのかも」とし、水族館の入館者急増を「はやり過ぎると危険。本来の道を失いかねない」と指摘されたことについて、「心配していただいたのは初めて。ありがたい」と述べた。
世界で注目されている2人のトークが聴けるとあって観客が続々と訪れ、こうした企画では「過去最高」(同美術館)の約400人が対談を待った。会場の展示ホールに用意した椅子では足りず、床に座ったり立ったままで聴き入る人や、ロビーに特設されたモニターで対談の様子を見る人もいた。
堀さんは対談を前に、市美術館名誉理事長の新田嘉一平田牧場会長と歓談。新田会長が「酒田舞娘(まいこ)」として復興した舞子について「日本の伝統文化を残す取り組みは素晴らしい」と高く評価した。新田会長は「舞子を文化として捉え、評価してもらったのは初めて。本質が分からない人が多い中、うれしい」と語った。
堀文子展は10月23日まで。会期中は無休で午前9時から午後5時まで(入館は同4時半まで)開く。