2017年(平成29年) 1月13日(金)付紙面より
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総合学習の時間を活用して同校では1年次から「遊佐の自然と文化」と銘打ち、地元・遊佐に関する学びを深めている。学習の集大成として3年生36人は18人ずつに分かれて昨年10月上旬から、かるたと湧水群を紹介する動画の制作に挑戦した。
このうちかるたに関しては鳥海山や風車などの風景、かどっこの水、神子水といった湧水、町立図書館、しらい自然館などの施設、特産物、樹木草花、商店、銘菓などの写真を生徒自ら撮影。A4サイズに引き伸ばしラミネート加工を施した上で、全員で五七五調の読み句を考案。2カ月ほどかけて11カテゴリー計176種が完成した。
大会には全校生徒と教職員が参加。4グループに分かれて絵札探しに挑戦した。かるた班の3年生がステージ上から「パプリカは 辛くないけど 唐辛子の仲間」「うまい水 それが胴腹 染み渡る」「遊佐町の われらがシンボル 鳥海山」「水面が 緑輝く 丸池様」などと読み上げると、生徒と教職員はその句に合った絵札を懸命に探していた。
かるたの製作に携わった一人、池田翔夜君(18)は、「読み句を考えるのが大変だった。これまで知らなかった箇所もあり、かなり遊佐に詳しくなった」と述べ、「できなかった建物などがまだある。1、2年生から製作を引き継いでもらい、より良いものにしてもらいたい」と話した。
2017年(平成29年) 1月13日(金)付紙面より
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「夜明けのうた」などのヒット曲で知られる酒田市出身のシャンソン歌手、岸洋子さん(本名・小山洋子、1934―92年)の没後25年を記念した「岸洋子メモリアル特別展示」が、同市一番町の市立資料館で開かれ、デビュー前後の写真やステージ衣装などの展示を通じ、いまだ全国に根強いファンを持つその歌と人生に光を当てている。
岸さんは浜田小時代から声楽家・加藤千恵氏に師事し、酒田東高、東京藝大声楽専攻科卒。オペラ歌手を志したが、病気のため、予定していたドイツ留学も断念して治療に専念。その間、友人にもらったエディット・ピアフのレコードを聞いてシャンソンに引かれ1959年、シャンソン歌手としてデビュー。64年に「夜明けのうた」、70年に「希望」で2度の日本レコード大賞歌唱賞を受賞。64―71年にはNHK紅白歌合戦に7回出場。「希望」は71年、選抜高校野球大会の入場行進曲にも選ばれた。
しかし70年9月、酒田での公演直後に倒れて入院。膠原病と診断され、その後は闘病しながら演奏活動を継続。76年10月の酒田大火直後は全国でチャリティーコンサートを開き、収益金を復興のため同市に寄贈。その功績で79年には紺綬褒章、88年には酒田市特別功労表彰を受賞した。
市立資料館での資料展は2004年、10―11年に続き3回目。いまだ全国のファンから問い合わせが絶えないため、「没後25年」を銘打って開いた。学生時代や酒田でのコンサート時の写真をはじめ、1960年の東京での初リサイタルのチラシ、「希望」のシングルレコードなど、実姉の故・斎藤トキ子さんが生前に同資料館に寄贈したものを中心に約60点を展示。会場では「夜明けのうた」「希望」「愛の讃歌」などのヒット曲も流している。
相原久生調査員は「オペラ歌手になる夢を病気で諦めるなど、何度挫折しても希望を探し、懸命に生きた。その人生が歌声に重なり、多くの人を魅了した。酒田生まれで、こんなすごい人がいたと、特に若い人が関心を持ち、歌を聞いてもらえたら」としている。
展示は12月27日まで。期間中、3回の展示替えを行うほか、関連のミニ演奏会も検討中という。入館料は小学生―大学生50円(土日曜日は小・中学生は無料)、一般100円。問い合わせは同資料館=電0234(24)6544=へ。
2017年(平成29年) 1月13日(金)付紙面より
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農学部で担当している『森林生態学』という講義では、本論と関係なさそうな話から始めることにしています。例えば『ノアの箱舟』の伝説。堕落した人類を洪水で一掃すると決めた神が、善良なノアだけは箱舟で逃がした話です。洪水から7日後、ノアは舟から一匹の鳩を飛ばしますが、とまる所がなくて戻ってきます。次の7日後に再び放すと、今度はオリーブの枝をくわえて戻ってきました。さらに7日後、鳩はついに帰ってこなかったので、完全に水が引けたと悟ったノアは地上に復帰します。さて、これからどんな講義が始まるのでしょうか?
タネの生態学です。種子の中には、不適な環境では発芽せずに何年も眠り続けるものがあります。かつて、2000年前の遺跡から見つかったハスのタネを播いたら発芽したという記事が話題になりました。数年前には、シベリアのツンドラに3万年間も埋もれていたナデシコのタネが生きていたと報道されました。身近な木々のなかにも、数十年くらいなら当たり前に眠るものがあります。日沿道の建設でできた更地にタラノキやアカメガシワが芽生えてきたのを見ました。周囲に親木はないので、ずいぶん前から土中で眠っていた種子が発芽したのでしょう。私たちの足下には何年もかけてたまった種子がたくさん眠っているのです。そのなかには、地上ではすでに絶滅したか、絶滅しそうな種類のタネが含まれていることもあります。そこで、自然界の土をプランターに播いてこれらを復活させる試みが各地で始まっています。まさに、タネの箱舟。関東のある湿地では、それこそ「箱舟計画」という名のもと、植生の復活を学校の生徒に委ねるという取り組みが実施されています。子供たちが頑張ると、もれなく親も手伝うので活動の輪が広がるそうです。
箱舟で始める講義にはさらにその先があります。土中の種子は、いつ、何をきっかけに発芽するのでしょう?先のタラノキやアカメガシワの芽生えは暗い場所では生きていけません。だから、上で植生が茂っている間は芽生えるべきでないことを種子は感じているのです。逆に、その植生が何かのきっかけで更地になったなら、即座に芽生えないと、他のライバルに先を越されて千載一遇のチャンスを逃します。だから、種子は眠っているように見えて常に外の気配を感知しているのです。箱舟から出るタイミングを教えた鳩のように、タネのセンサーが光や温度の変化を的確に捉えて芽生えるべきタイミングを知らせています。
もっとも、この講義スタイルも次第に危うくなってきています。そもそも箱舟伝説を知らない若者が増えているからです。元ネタを知らなければ、たとえ話は威力がない。別の講義で登場する八岐大蛇(やまたのおろち)も、知っていると回答した新入生は(まんが『ドラえもん』で読んだと答えた人も含めて)もはや3割です。自然の消滅と同じ速度で文化も失われている。タネだけじゃなく、(噺の)ネタの箱舟も造らねば…。
(元山形大学農学部教授 専門はブナ林をはじめとする生態学。筆者は昨年3月に急逝されました。原稿は生前に寄稿していただいていたものです)