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2017年(平成29年) 8月23日(水)付紙面より

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岡部さん(鶴岡淡水魚夢童の会代表理事)の魚類瓶詰標本3000本 小田原市の地球博物館へ

 県内全域の河川で魚類の生息分布を調べているNPO法人「鶴岡淡水魚 夢童(ゆめわらべ)の会」代表理事の岡部夏雄さん(75)=鶴岡市砂田町=がこれまで20年以上にわたり採捕してきた魚類の瓶詰標本約3000本が、神奈川県小田原市の県立生命の星・地球博物館に譲渡されることになり、21日午後に岡部さんの自宅から搬出された。採捕した日時や場所などの記録付きで、学術的に貴重なもの。岡部さんは「価値を認め、全国的な資料としてきちんと保管してもらえるのはうれしい」と胸をなで下ろしている。

 岡部さんは1942年、赤川左岸の鶴岡市我老林生まれ。少年期の夏は、対岸の旧櫛引町馬渡にある母親の実家に泊まりがけで行き、「ざっこしめ」に明け暮れた。中学卒業後は上京して就職。66年にUターン後は個人で鉄工所を経営しながら、赤川漁業協同組合員としてサクラマスやアユ、カジカなどを捕った。

 86年度から断続的に県のサクラマス捕獲調査に従事。94年に旧藤島町で水路工事に伴うヤリタナゴの保護活動に参加したのを機に淡水魚全般の生息分布調査に目覚め、以来、県内全域の内水面漁協組合員となり、調べ続けている。

 環境省のレッドデータブックで絶滅危惧種になっているウケクチウグイやギバチなど希少種を見つけたり、サクラマスの産卵場所も特定。堰堤(えんてい)などによる河川の分断やコンクリート護岸などで魚類が減った実態を明らかにし、魚道設置を働き掛け実現させるなど、川の再生を推進。「消える魚の生活環境」「山形県(おらだ)の森川海(いさん) 郷土に生息する淡水魚たち」などを自費出版し県内の全小・中学校に寄贈するなど、教育にも尽力している。

 標本は、調査時に捕獲した現物の一部をイソプロピルアルコールなどの液に漬け保存するもので、実証的な調査には欠かせない。これまで集めたものは約3300本。魚種では絶滅危惧種からフナ、ドジョウなどよく見掛けるものまで、汽水域の魚を含め約100種、5万匹前後。量が増え個人での保管が難しくなってきた上、自身が昨年にがんの手術を受けたこともあり、きちんと保管してもらえる場所を探していた。

 市内の廃校にという案も出たが、岡部さんは「ただ置いておくだけでは劣化し、捨てられるだけ。将来もDNA分析ができるよう、良い状態で保管し、記録とともに活用してほしい」という思いを訴え続けていた。

 地球博物館は、魚類担当の学芸員が2002年に岡部さん方を訪れた際、丹念な記録や保存状態の良さに感嘆し、「いつでも引き取る」と申し出ていた。岡部さんはこのほど、県内での保管を断念し、手元に残す約300本を除き、同博物館に無償譲渡することを決めた。移送後は保存液もより劣化しにくいものに替え、記録と関連付けて保管されるという。

 岡部さんは「学歴もなく、独学でやってきた自分の仕事を認めてもらえたのはうれしい」とする一方で、「できれば地元に残したかった」と悔しさもにじませる。

 標本を保管する意義については「希少種だけが貴重なのではない。イトヨはかつてどの川にも上っていたが、県内ではもう見ない。いつ、どの魚がそうなるか分からない。DNA分析できるように残しておけば、環境との関係を分析したり、そこにいなくなっても近い種を増やすなどいろいろ応用できる」と説明する。

 調査については「仕事から仕事を教わるように、子どもの頃からざっこしめを通し、魚からいろんなことを教わった。真剣でないと、向こうも真の姿を見せないとか。その恩返しで、人間が壊してしまった川を魚たちのために元に戻したい。これからも豊かな川の再生を訴え続ける」と話した。

移送のため大半の梱包(こんぽう)を終え、残りわずかとなった標本の脇に立つ岡部さん=16日、鶴岡市砂田町の自宅
移送のため大半の梱包(こんぽう)を終え、残りわずかとなった標本の脇に立つ岡部さん=16日、鶴岡市砂田町の自宅


2017年(平成29年) 8月23日(水)付紙面より

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宝生流宗家の美しい舞ファン魅了

 公益財団法人「庄内能楽館」(酒田市浜松町、池田宏理事長)主催の「初心者の為の能楽入門講座」(酒田市教育委員会、荘内日報社、マリーン5清水屋など後援)が21日、法人が運営する浜松町の庄内能楽館で開かれた。能楽・宝生流第20代宗家の宝生和英さんらが能「船弁慶」を演じたほか、同法人が取り組んでいる仕舞教室などの受講生が日頃の練習の成果を披露した。

 庄内能楽館は1976年、池田理事長の母で能楽に造詣が深かった康子さんが設置。能舞台はひのき造りでくぎを使用していない。舞台の下にはかめが入っており、踏み鳴らしたときに音が響くようになっている。

 桟敷席も含め約150人を収容。竣工(しゅんこう)以来、能楽師や団体による公演、仕舞や囃子、謡曲の愛好家の活動を支えるなどしてきたが、康子さんの病気などで十数年間はほぼ休止状態に。2014年に公益財団法人に移行したことを受け、池田理事長が再開を決定し以来、仕舞・謡曲、太鼓・笛などの教室を実施している。

 今回の講座は、子どもたちから日本の伝統文化に触れてもらおうと再開以来、毎年開催している「夏休み親子仕舞教室」の発表会を兼ね、能楽の魅力をより多くの人から知ってもらおうと、和英さんらの協力で同能楽館が企画した。

 この日は2部構成で行われ、第1部では仕舞教室の受講生約30人がこの夏の成果を披露。終了後は和英さんが一人一人に修了証を手渡し、「続けてきた人は後輩に負けないよう、初めての人は先輩に追い付くよう、これからもみんなで楽しく能を続けて」と激励した。

 仕舞教室講師を務める能楽師、辰巳大二郎さんらが能について解説した後、第2部では、静御前との別れ、そして九州に向けて出発する源義経と弁慶の前に立ちはだかる平家の「怨霊」を描いた「船弁慶」。静御前と平知盛を和英さんが務めたほか、母親の実家がある鶴岡市に帰省し仕舞教室を受講した出雲路聖君(11)=千葉県浦安市立富岡小6年=が子方として共演、義経を演じた。和英さんの美しい舞い姿に、参加した100人余の能楽ファンは時がたつのを忘れるかのように見入っていた。出雲路君は「小学3年の時から毎年、受講しており今年で4年目。能は楽しい」と話していた。

出雲路君(右)による義経の前で舞を披露する和英さん演じる静御前(中央)
出雲路君(右)による義経の前で舞を披露する和英さん演じる静御前(中央)



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