2019年(平成31年) 3月3日(日)付紙面より
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♪国の大本農の業 学び修むる庄内の―。鶴岡市の県立庄内農業高校(青柳晴雄校長、生徒168人)の本年度卒業証書授与式が1日、同校で行われた。卒業生58人と共に校歌を声高らかに歌う同窓生の志田孝士さん(91)=鶴岡市堅苔沢=にとっても、74年前の思いを遂げる「特別な日」になった。
卒業式では、志田さんが揮毫(きごう)し、瑞穂同窓会が同校に贈った校歌の額装(縦82センチ、横204センチ)がお披露目された。晴れの日を迎えた後輩たちをうれしそうに見つめる志田さんは、卒業式に出席できなかった戦時下の高校時代に思いをはせた。
志田さんは同校(当時は県立庄内農学校)42期卒業生。終戦の年の1945(昭和20)年3月に卒業した。在学当時、志田さんは毎朝5時ごろに起きて、堅苔沢(当時は豊浦村)の自宅から五十川駅まで40分歩いて汽車通学していた。学校では勤労奉仕があり、歩いて月山の麓の川代山に下刈りに行ったことも。大変な時代だったが、3年間休むことはなかった。
最後の登校日となる卒業式の当日、志田さんにとって忘れられない出来事が起こった。その日は汽車の乗車制限があり、「切符は20枚だけ。一緒にいた同級生は乗れたが、自分は乗せてもらえなかった。卒業式があることを駅員に告げても、家に戻るしかなかった」。後日、卒業証書は手元に届いたが、「皆勤だったので残念というか、何とも言えない思いだった」と当時を振り返る。
志田さんは小学校教員を38年間務め、退職後は堅苔沢の自宅で昨年まで30年間、書道教室を開いていた。同窓会から揮毫の依頼があり、「私の家族は庄農一家でみんな校歌が歌えるのが自慢。喜んで一気に書いた」。したためた校歌には母校への熱い思いが込められている。
卒業式に招かれ、卒業生と一緒に校歌を歌った志田さんは「卒業式に参加させてもらい、こんなにうれしいことはない。母校の生徒たちが立派で感激した」と晴れやかな表情で語った。