2019年(令和1年) 11月16日(土)付紙面より
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酒田市黒森地区に約280年前から伝わる「黒森歌舞伎」(県指定無形民俗文化財)がこのほど、ポーランドの首都ワルシャワ市など2カ所で4回の公演を行った。同国で歌舞伎に接する機会はほとんどないとあって、各回とも満席で計800人超が鑑賞した。ポーランド公演実行委員会の顧問として同行した丸山至市長は「総じて好評だった。さらにワンステップ上を目指したい」と、国の重要無形民俗文化財指定や、地域の保存伝承の機運の高まりに期待を強めている。
ポーランドのアダム・ミツキェヴィチ大助教授の日本文化研究家、イガ・ルトコフスカさんの仲介の下、日本・ポーランド国交樹立100周年の記念事業の一環で、日本の約170の地芝居を代表して招かれた。同歌舞伎の海外公演は初。
継承団体「妻堂連中」(冨樫久一座長)や市の関係者ら41人が今月2―9日に同国を訪れ、ワルシャワ市の演劇大学と、古都クラクフ市のマンガ博物館で各2回、「義経千本桜 伏見稲荷鳥居前の場」を演じた。これに前後し、歌舞伎文字「勘亭流」や押し絵、傘福の各製作ワークショップなどを行い、小学生や大学生、一般など多様な人々と交流した。
市教育委員会社会教育文化課によると、歌舞伎公演はワルシャワが2回で約430人、クラクフが同約400人の計約830人が鑑賞。ワルシャワでは立ち見客も出た。両会場ともポーランド語の解説冊子を配り、せりふは舞台脇のモニターで同国語の字幕を流した。
観客の反応について同行した同課の川島崇史文化財主査は「笑うシーンでは笑ったり、話の展開はおおむね理解してもらえた。見えを切る場面では『待ってました』などの掛け声が飛び、よく勉強している面も。逆に、木で舞台をバシバシと打つ足音の効果音に驚いたり、全体として歌舞伎が新鮮に映っていた。終了後は多くの人が記念撮影に集まるなど熱気に包まれた」とする。
また、ワルシャワのベドナルスカ小学校で行った傘福作りのワークショップは、酒田市出身の画家・佐藤真生さんの企画で、紅・白の円形の紙をはさみで切って模様を描き、和傘につるすもの。事前に黒森小の児童が同様に作った飾りを持参し、両国児童の飾りを交ぜた傘福を2基作り、1基は現地に置いてきた。「模様の発想が日本とは違い、面白いものができた。もう1基は今後、黒森小に届ける」(川島主査)という。
黒森の人たちに関して川島主査は「熱い反応に直接接し、『世界に通じる』と自信、誇りを強くした人も多い」とみる。
国の重要無形文化財指定に関しては、市教委が1999―2002年度の4カ年、文部科学省の助成を受け、実質的に指定前段の手続きとなる学術調査を終えている。川島主査は「今は指定待ちの状態。重荷になるのではと懸念していた住民も、今回の公演を機に、後継者育成など地域全体で盛り上げていこうという機運が高まるのでは」とみる。
丸山市長は13日の定例記者会見でポーランド公演を振り返り、「総じて好評だった。酒田の伝統文化、日本の文化を大いにアピールできた。これを弾みにさらにワンステップ上を目指し、市民の認知度向上や後継者育成にも力を入れたい」と国の文化財指定などへの期待を語った。