2020年(令和2年) 3月27日(金)付紙面より
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鶴岡市の慶應義塾大先端生命科学研究所(冨田勝所長)の村井純子特任准教授らのグループは25日、抗がん剤の効果を飛躍的に高めるとして近年、世界中で注目を浴び、研究されているタンパク質「SLFN11(シュラーフェンイレブン)」に、抗がん剤の投与下でストレスや免疫反応に関する遺伝子群を活性化させるなどの新たな機能を発見したと発表した。米国立衛生研究所との共同研究で、同日付の米科学誌「セルリポーツ」電子速報版に論文が掲載され、高校生研究助手として任用された鶴岡中央高の生徒3人の名前も研究協力者として載っている。
SLFN11は、がん治療薬として使用される白金製剤や卵巣がんに対し承認されたPARP阻害剤の抗がん効果を高めるとして、これまでに抗がん剤投与下でDNAとタンパク質の複合体に結合し、DNAの複製を止めることが分かっている。今回の研究では、SLFN11にはこの複合体の構造を変化させる働きがあり、同時にストレスや免疫反応に関わる遺伝子群の発現が数倍―数十倍に高まることを発見した。
SLFN11の働きには未解明な部分が多く、SLFN11の有無で患者にとってより適切な薬が選択でき、抗がん剤の効果を事前に予測できる“バイオマーカー”になるとして注目され、世界中で研究が進められている。村井特任准教授は今回の研究成果を抗がん剤の抗がん効果を高めるメカニズムの解明にもつながるとして、「将来、薬の無駄打ちがなくなり、薬の選択性がより高まれば」と展望を語り、今後さらに詳細に解析するとしている。
昨年5月から高校生研究助手として、鶴岡中央高普通科2年の渡部智大さん(17)と佐藤謙乃介さん(17)、同1年の佐藤結さん(16)が携わった。授業終了後、平日は毎日のように研究所へ通い、解析装置を使って細胞を判別するセルカウントや実験結果のデータ入力などを分担して行った。生徒たちは「自分のやってきたことが表に出るとうれしい」「ミスをしないように心掛け、不明な点は積極的に聞いていった」などと振り返った。村井特任准教授はアメリカから帰国後、2018年に慶應先端研に着任。「高校生と聞いて初めはどうなるんだろうと半信半疑だった。洗い物や掃除、ごみ捨てなどもしてもらい、とても助かった」と笑顔で高校生研究助手たちの活躍をたたえた。