2022年(令和4年) 7月20日(水)付紙面より
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庄内の平野部と山あいでトンボが大発生している。原因は分からないが、これまで千葉や熊本で大量に発生したケースがあった。トンボの種類は通称「赤とんぼ」として親しまれているアキアカネ。鶴岡市水沢の農道では、多くのトンボが車のタイヤに引かれ、それをエサとしてついばむカラスの姿も見られる。
アキアカネは九州から北海道まで広く分布する。例年、秋に田んぼなどに卵を産み、冬は土の中で越冬。春の農作業で田んぼに水が入ると、卵からヤゴ(幼虫)になり、イトミミズなどを食べて成長する。梅雨時期の7月ごろに羽化し、トンボの姿になる。その後、山あいに移動して秋になると再び平野に戻る。交尾して産卵し、その一生を終える。昔と比べ農薬などの影響で生息数は減少している、と指摘されている。
庄内でトンボが大量発生したのは先月下旬。「いつもなら8月に入ってから見かけるが、今年は1カ月ほど早い気がする」「場所によってはものすごい数。大群となっているところもある」と多くの有識者たちの間で確認情報が相次いだ。先月の空梅雨で水辺の水温が上がり羽化を促した、との見方もある。
山形大農学部の学生や院生、留学生、地元の農家らが昨年、昭和初期の農村の姿を取り戻そうと鶴岡市中山地区の中山間部にある耕作放棄地を“開拓”。50年以上が経ち、雑木林となった農地を水田によみがえらせた。今年5月には関係者が集まって広さ約11アールにはえぬきの苗を植えた。除草剤などの農薬をいっさい使わない無農薬栽培で9月の収穫を予定する。
自然循環型農業の確立に向けて学生と一緒に栽培研究している山大農学部の佐藤智准教授(応用動物学専門)によると、久しぶりに雨が降った後の14日、田んぼ全体に大量のアキアカネが群生しているのを見つけた。中にはオニヤンマとシオカラトンボが飛んでいる姿も確認した。
佐藤准教授は「数にしてどのくらいだろうか。千単位、ひょっとすると万単位かもしれない。これほどの光景を見たのは初めて」と状況を振り返る。
この復活田は昨年秋に開拓して以来、沢の水を入れ春の代かきまでそのままの状態にしていた。昨秋に産み付けた卵が水田の中でヤゴになり羽化したケースと、もともと大量発生したトンボが水辺を求めて周辺から集まってきた可能性が考えられるという。現在、田んぼにはイモリやアメンボ、ゲンゴロウ、イトミミズなどの多種多様な生物がすみついている。
佐藤准教授は「アキアカネは生まれた後、間もなく山に移動して夏を過ごす。そして秋に平野へ戻ってくるが、その時点でどのようになっているか。いずれにしても農薬を使わず水辺がある復活田は、生き物にとってこの上のない環境になっていることに違いはない。もう少し状況を見てみたい」と話している。