2023年(令和5年) 5月20日(土)付紙面より
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6月下旬、鶴岡市加茂に観光と文化を発信する「渚の交番」がオープンする。やや堅苦しい名称だが「カモンマーレ」の愛称が付けられた。マーレはイタリア語で「海辺」を意味し、「加茂に来てね(カモン)」という願いを込めた。浜辺を地域の活性化に生かしながら、豊かで美しい海を次世代に引き継ぐ活動の総合拠点とし、庄内の新しい観光発信拠点になる。
渚の交番は日本財団のプロジェクト。海辺を取り巻く活動に関わる人々が情報を交換し、海辺を「点」から「線」「面」へと活動の輪を広げ、豊かな海づくりを通じ、地域の活性化につなげる。渚の交番は全国11カ所にあり、加茂地区は東北では宮城県石巻市に次いで2カ所目、日本海側では初の施設。
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「鶴岡市北前船日本遺産推進協議会」が3年前に設立されている。文化庁の日本遺産「荒波を越えた男たちの夢が紡いだ異空間?北前船寄港地・船主集落?」の構成の中心に加茂港がある。かつての日本海交易の主要港だった加茂港周辺の文化遺産を整備し、庄内一円の経済・文化の情報を発信し、地域の活性化につなげていくのが同推進協議会の狙いだが、それに新しい施設が加わる。
カモンマーレの周辺には加茂レインボービーチ、加茂水族館、加茂水産高、県水産研究所がある。教育と研究拠点地域への立地を強みとしたい。3階建ての施設にはファストフード販売や直売コーナー、庄内の海と里の食材を使ったイタリアンレストラン、海洋教育のワークショップや料理教室などに活用するスペースが設けられる。
加茂は和同年間(710年頃)、能登からの移り住んだ人によって開かれたとされる。千石船クラスの大型船がなかった時代は、日本海交易による経済、文化が加茂港を経由して庄内に広がった。新潟方面からの出羽三山参拝者は、加茂港に着くと白装束に着替えて参拝に向かったという。往時の“庄内の玄関口”だった加茂港に、時を経て誕生する複合型施設のカモンマーレは、かつてのにぎわいの再来を担うものとの期待が高まる。
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渚の交番は2009年、宮崎県宮崎市の青島海岸に第1号が開設された。観光地を安心して楽しめるように、地域の情報や観光体験メニューなどを提供し、観光地になくてはならない存在になっているようだ。
庄内は食材の宝庫だ。カモンマーレに設けられるレストランの料理は、東京のイタリアンシェフの監修を受け、魚介類を中心に在来作物などを使った料理を提供する。加茂以南の海岸線には由良とあつみ温泉、北に湯野浜温泉、山手には湯田川温泉があり、出羽三山信仰などとのつながりを持たせながら、庄内全体の観光と藩政時代からの文化を発信する。カモンマーレには、その新拠点になることへの期待が膨らむ。