2023年(令和5年) 7月9日(日)付紙面より
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母グマとはぐれ旧朝日村の山あいで保護された雌のツキノワグマが32年の天寿を全うした。鶴岡市上名川の佐藤八重治さん(80)が保健所から許可をもらって飼育してきた。名前は「クロ」。今月1日に鉄製の小屋で、八重治さんから看取られながら静かに息を引き取った。人間の年齢にすると100歳近いという。八重治さんは「多くの人に愛され、多くの人に笑顔を与えてきた。クロは幸せだったと思う。今はただありがとう、と言いたい」と話している。
保護されたのは1991年4月。地元猟友会のメンバーが見つけ、いったん動物好きの八重治さん方で保護してもらうことにした。
「元気になったらクマ牧場に引き取ってもらおう」(八重治さん)と考えたが世話をしているうちに愛情が高まり許可を得て飼い始めた。鶴岡市内の鉄工所に頼んで鉄製の小屋を制作。リンゴといった果物や春になると大好きな山菜(イタドリなど)を裏山から採って与えた。
その後、「保護されたクマの赤ちゃん」として地域の評判となり、保育園の幼児や老人クラブのお年寄りが見学に。「クロちゃんファンクラブ」も発足し会員は北海道から沖縄まで約1000人の登録者数を数えた。
そんなクロも年齢には勝てず今年2月に小屋の中で倒れた。足が悪く自ら立つことが困難となり、八重治さんが付きっきりで介護する毎日が続いた。途中、回復の兆しが見えたものの今月1日午後1時ごろ、鉄製の柵にもたれかかるようにして亡くなったという。
「人も動物も命は同じ」と八重治さんや地域の人たちなど十数人が集まりクロの葬儀をした後、八重治さんが所有する裏山の一角に埋葬した。たくさんの花に囲まれて土葬、墓標も立てた。
「クロは穏やかな性格でいつも見学に訪れた人たちを出迎えるような感じだった。腹を見せて愛嬌(あいきょう)を振りまく時もあったほど。多くの人たちから愛され、親しまれてきたことに感謝したい」。クロの墓標を見つめながら八重治さんが語った。