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2023年(令和5年) 7月12日(水)付紙面より

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へそ曲がり戯言(ざれごと)32 混迷深まるマイナンバー問題 山田 伸二

 政府は来年秋から、今使われている健康保険証を廃止してマイナンバーカードを保険証として使う「マイナ保険証」にする方針です。ところが、準備の段階で様々なミスが起きている事が発覚して国民の不信感が募っています。政府は批判をかわすため保険証の代わりとなる紙の「資格確認書」を発行する意向を示して、混乱に拍車を掛けています。資格確認書を出すくらいなら何で保険証を廃止するのでしょう。今回は混迷の度を増すこの問題を取り上げます。

 アメリカにも似たような制度として、ソーシャル・セキュリティー・ナンバー(社会保障番号)があります。戸籍制度がないアメリカで、社会保障を受け取る人を特定するためにできた身分証明に当たるID番号で、赤ちゃんからお年寄りまで一人一人に番号が与えられます。これが無いと銀行口座の開設も運転免許も取得出来ないので、留学したとき真っ先に手に入れました。滞在中もその後も、これをめぐって日本で起きているような問題は全くありませんでした。

 その経験も踏まえて考えるに、今回の混乱の背景は二つ、実務の仕事を甘く見ていたこと、何のためにこの仕組みを導入するのか国民に理解されていないことだと思います。

 まず、実務の問題です。「マイナ保険証」を病院で使ったら、別の人の名前が出てきたり、その人の薬のデータなどが出てきたといいます。健康保険組合の職員などが誤って別人のデータを登録したためとみられ、入力ミスは7300件にも上りました。

 混乱の原因として日本語の問題があります。例えば「さいとうさん」と言っても、「斉藤」「斎藤」「齋藤」…と膨大な数に上ります。これをきちんと確認するのは大ごとです。また住所でも、「霞ヶ関1丁目2番3号」だけで無く、「霞ヶ関1―2―3」「霞ヶ関1?2?3」など色々な表記の仕方があり、符合するのも時間が掛かります。

 以前、通信の仕組みをアナログからデジタルに変えるとき、アメリカの通信技術の専門家は「日本では、単にスイッチをアナログからデジタルに押し替えるだけで済むと思っている。実際には様々な機械やソフトの接続の部分で不都合が起きうるので一つ一つチェックしてからでないと、転換は出来ません」と述べ、私たちがシステムの変更を甘く見ている事を強く批判していた事を思い出します。

 今回の問題に戻ると、専門家によれば最も重大な原因は、政府省庁、各自治体で行政データの標準化が進んでおらず、様々な情報システムが混在したまま整理されていないことにあるといいます。書式などきちんとしたフォーマットが出来ていれば、入力ミスもかなり減らす事は出来たはずです。私たちの生活に関わる重要な仕組みを変更しようとしているのに、そのための準備が全く出来ていなかったということです。現場の人達の声をきちんと聞いていたら、こうした問題は避けられたはずで、仕事を甘く見ていたとしか思えません。

 政府の個人情報保護委員会は、この問題について近くデジタル庁に立ち入り検査を行う方針です。国民の怒りや不信感を放置出来ないと、異例の展開です。デジタル担当の河野太郎大臣は、コロナのワクチンの接種、一時金の支給などでこうした問題は嫌と言うほど見ていたはずなのに経験が全く活かされていません。河野さんは責任をとって辞任し、後任の人がきちんとしたシステムを作り直すべきです。

 問題の背景二つ目は、何のために新しい制度を導入するかです。「マイナ保険証」を使えば、患者さんが診察を受けたデータは一元的に保存され、これまで処方された薬や検診データなどが取り出せて治療に役立てることができるといいます。

 しかし、医師でかつて厚生行政にも関与していた友人の話によると、政府と医師会との間で診療データを提供する約束を取り付けておらず、こんな話は絵に描いた餅だと言います。医師にしてみれば診療データを提供する事で、診療内容をチェックされることにつながるのでおいそれとはいきません。

 一方、私たちにしてみれば過去の病歴が馴染み無い医師に知られたり、情報が第三者に漏れる恐れがあります。こうしたプライバシーの保護の問題については、未だにきちんと議論されていません。

 アメリカでは一元化した医療データを元に、保険制度の中に標準医療という仕組みを作っています。ある病気の治療費は統計的にみて20万円から30万円かかるというデータを元に、その枠を越える診療は高すぎると保険料の支払いを見直すなどして、膨れあがる医療費の抑制に使っています。この様に本当に医療制度の改革に繋がるならば「マイナ保険証」も理解できるでしょうが、関係者の相互不信が強い現状ではこうした改革は望みようがありません。

 政府はマイナンバーカードを導入する理由として「公平・公正な社会の実現」「行政の効率化」「国民の利便性の向上」をあげます。しかし、これがどれだけ国民に理解されているでしょうか。

 「マイナンバーを申し込めばポイントが貰えます」とまるで餌で国民を釣る様なやりかた、申込者を増やす事が目的になってしまった様な今のやり方は、根本から見直す必要があるのではないでしょうか。

(東北公益文科大学客員教授、元NHK解説委員) 「へそ曲がりの戯言」は随時掲載します



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