2023年(令和5年) 8月1日(火)付紙面より
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水上に組んだ野外ステージで黒川能(国指定重要無形民俗文化財)を上演する「水焔(すいえん)の能」が29日夜、鶴岡市櫛引総合運動公園で行われた。かがり火がともされた水上の舞台で能、狂言各一番が披露され、県内外から訪れた観客を幽玄の世界にいざなった。
1984年に旧櫛引町が町制施行30年を迎えたことを記念して初開催され、今回で39回目。舞台は上座と下座が隔年で演じており、今年は下座が演能を担当した。
この日は午後6時に開演。春日神社の難波玉記宮司など神職が大神に演能の許しを求め、舞台を清める「舞台まつり」などの後、地元の櫛引東小児童による舞囃子(まいばやし)「高砂(たかさご)」が披露された。
続いて下座の狂言「梟山伏(ふくろうやまぶし)」、能「大社(おおやしろ)」が演じられた。このうち「大社」は出雲大社(島根県)を舞台にした演目で、水焔の能で演じられるのは初。10月のある日、朝廷に仕える臣下が出雲へ参詣すると、老若二人の「宮人」が現れ社の縁起を語る。宮人が姿を消した後、夜になって現れた十羅刹女や杵築大神が舞いを踊る。海底からは海龍王が現れ黄金の箱を神前に捧げ、国土安全と五穀成就を祝福する―という内容。出雲では八百万の神々が集まる10月を神在月としており、そのにぎやかな光景を能で表現した。
日が沈むにつれて闇が深まると、水上に設けられた4基のかがり火の炎が鮮やかに浮かび上がった。舞台に響く謡いの声と笛、太鼓の音にまきのはぜる音が重なり、さらに燃え尽きたまきのかけらが水に落ちる「ジュッ」という音が“水”と“焔”の競演を演出。観客たちは舞台を見つめ、幽玄の世界に浸っていた。