2023年(令和5年) 8月19日(土)付紙面より
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月遅れのお盆で帰省した人たちが、再び生活の拠点を築いている首都圏などに戻っていった。久しぶりの里帰りで「やっぱり田舎はいいなあ!」と、古里の良さを見直した方も多かったのではないか。そんな人たちの中から「もう一度古里で暮らそう」と、Uターンする人が出てくれるとうれしい。政府も東京圏から地方への移住者支援政策を掲げているだけに、なおさらその思いを強くする。
〈山びこも数に入れたい過疎の里〉という川柳が新聞に載っていた。人が減っていく現実を直視し、生の声がにぎやかに響いてほしいという願いを込めた作品であろう。首都圏一極集中が止まらないというものの、地方には首都圏にはない魅力も数多くあることを再認識してもらいたい。
全国の812市区(東京都千代田・中央・港区は含まず)を比較した「住みよさランキング2023」という調査がある。東洋経済新報社(東京)が、国の統計に独自の算出指標▽安心度(病院数や刑法犯件数など)▽利便度(大規模店舗や飲食店数など)▽快適度(転出入人口比率など)▽富裕度(平均地価や住宅延べ床面積など)―の4項目を加味して割り出した。
山形では東根市が全国総合順位で32位に入った。空港、新幹線、高速道が整備されて空港周辺に製造業が集積、転入人口比率が前年比で伸びたことなどが評価された。一方酒田・鶴岡両市は300番台、600番台と低いランクだった。
しかしである。県庄内総合支庁の「庄内若者定着促進会議」によれば、庄内の10―19年の転出入は、15―24歳が転出超過だったのに、25―34歳は転入超過だった。東京や宮城県などの在住者が、夫か妻が庄内出身者であることを縁に転入してきたケースが多い。仕事、住宅、子育て、自然環境など総合的に古里の良さを再認識したということではないだろうか。首都圏などに出た人は、定年を前に古里志向が高まる傾向にあると言われるが、Uターンするなら若い年代の時の方が、後の安定した生活基盤を築くことができると思われる。
地域おこし協力隊員として移住、地域の魅力を発信している人もいる。こうした人たちの活動が、ほかの移住者・転入者につながる呼び水になってもらいたい。通信設備の進歩で転職せずに移住できる環境も整ってきている。酒田市の山居倉庫向かいの移住とまちづくりを目指す地域交流拠点形成事業では、事業者がサテライトオフィスや、移住者がリモートワークに利用できるスペースもある。
政府のデジタル田園都市国家構想では、移住支援で27年度に東京圏から地方への移住者を年間1万人にする。国を支える地方の活力を確固たるものにするために、構想だけで終わることなく、実効性を示してもらわねばならない。