2023年(令和5年) 9月14日(木)付紙面より
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今年7月、児童・生徒の夏休み直前の時節柄もあって、文部科学省は巷間目まぐるしく普及・展開する生成AIの扱い方に関する指針を発信しました。背景には、夏休みの課題に生成AIが不適切に利用される懸念があったからです。例えば、読書感想文を生成AIに作らせてあたかも自分がオリジナルに書いたとして提出する心配があり、このことは不正行為に当たるとしています。その一方で、日常の授業などにおいては、英会話での表現やプログラミング学習への利用などの効果的な活用も挙げ、秋までにモデル校を選定して、実際に用いられた成果や課題を例証・検証するとのことです。
8月のマスコミ報道では、全国で初めて虐待事案の対応にAIを採り入れた三重県で、リスク評価が低かったことから県が虐待被害女児の一時保護を見送ったために女児の死亡に至った記事がありました。不幸にもAIデータの盲信が裏目に出たケースです。
生成AIとは、あらかじめ“学習”された大量のデータをもとに、人間の指示に基づいてオリジナルコンテンツを生成する人工知能(AI)のことです。こうした生成AIによって、より“創造”に近い文章や画像なども自動的に作成されるようになりました。また、昨今の日本では人手不足の深刻化に加え、海外に比較して生産性が低い社会状況下にあることから、生成AIを活用しながら、労働時間の短縮、生産性の向上、人件費の削減などに取り組む企業が増えてきました。政府もAI戦略会議において、生成AIを社会全体で活用する必要性を強調するとともに、技術開発や整備の充実で企業の取り組みを後押しして国際競争力アップを目指すとしています。
さて、教育現場における生成AIへの対応は、教育関係者にとっても、ここ数年来のコロナ禍でのオンライン教育の導入と同様、重要な課題です。生成AIを上手に活用すれば学習効率の向上や知的好奇心をさらに広げさせることもできますし、一人ひとりに最適化した学びも提示してくれます。また、授業での不充分な内容を補ってくれたり、新たな視点で議論を深める素材や手がかりになったり、言わば、主体的・協働的な学びの手助けともなり得ます。しかし、片や、応答の中には誤った情報が含まれる可能性もあります。出てきた応答・回答が正しいか、偽りはないかを吟味した上で最終的な判断は自分自身であることを指導する必要があり、新情報化時代を考慮した新たな学びの在り方も求められます。生成AIは私たちが望んでいる豊かな社会への変革をもたらしてくれますが、同時に、偽・誤情報の拡散や個人情報の流出、著作権の侵害などのリスクもあります。今後は、適切に活用する力の養成とともに、子どもたちが守らなければならないルールを周知させることも重要であります。
人類の歴史を辿ってみると、脳を構成する「意識」と「知能」はあざなえる縄のごとく絡み合いながら人類の進化を促してきました。その「知能」の部分が今やAIにデータ化され、その能力は近い将来には人間の知能を超えるとも言われています。ここで私たちが忘れてならないことは、人間各自が、固有の「意識」をしっかりと機能させながら、進化し続けるAIとの共存を図ることです。古代より多くの賢人や科学者は「意識」についてアプローチしてきましたが、「意識」とは機械では到達できない人間が人間として「在る」、人間らしさの根源です。もし、「意識」が盲目的にデータ化された場合は、人間はもう独立した尊厳を具えた一個の人間ではなくなるのです。
鈴木孝純(東北公益文科大学理事長補佐)